北朝鮮には「国家密輸」という世にも不思議な貿易方法が存在する。保衛局(秘密警察)、安全局(警察局)など国家機関がグルになり、制裁や関税を回避して品物を密かに輸出入することだ。
しかし、中国の取り締まり強化で支障が生じ、中断に至ったと、両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
この情報筋によれば、中国は5月15日から国境地帯における大々的な取り締まりに入り、その影響を受け、国家密輸が中断された状態だ。取り締まりは第3週(~17日)まで行われる予定だが、それ以降どうなるかは状況を見守る必要があるという。
両江道の恵山(ヘサン)では、鴨緑江を挟んで向かい合う中国の吉林省長白朝鮮族自治県との間で長年、密輸が行われてきた。主に民間の業者や国営の貿易会社が、薬草、鉱物、衣類、農産物などを非公式ルートで密輸しており、地域経済の一つの柱となってきた。
北朝鮮がコロナ鎖国状態に入り、密輸が困難になったが、2023年ごろから徐々に再開された。今は民間人ではなく、国家機関主導の国家密輸がメインとなった。現地の別の情報筋は今月14日、密輸が非常に盛んに行われていると伝えた。
しかも、国家密輸に携わる複数の機関が、国の許可を得ずに貴金属を中国に持ち出すという状況だった。しかし、地元住民の懐も潤っており、市場も活気を取り戻し、そもそも密輸に依存していた地域経済全体が、ようやく息を吹き返そうとしていた。
そこに冷水を浴びせかけたのが、今回の中国による取り締まりだ。その名目は、国境秩序の維持だ。
中国の辺防隊(国境警備隊)の取り締まり強化で、中国側の業者が身動きできなくなっている。
「辺防隊が一晩中眠らずに主要な(密輸)地点をパトロールしているそうだ。見つかれば、物品はすべて没収されるばかりか、法的な処罰も受ける可能性があるため、中国側の業者たちは密輸を試みることすらままならない」(情報筋)
北朝鮮の密輸業者たちは、「わが国(北朝鮮)が静かだと中国が騒がしくなり、中国が静かだと今度はわが国が騒がしくなる。本当に金を稼ぐのが難しい」とボヤいているという。
国家密輸の中断で、北朝鮮国内の薬草や鉱物など密輸品目の価格が下落傾向にあり、流通が滞ったことで市場にも既に影響が及び、商売が難しくなった商人たちは密貿易の再開を待ち望んでいると情報筋は伝えている。
中国の情報筋も、「最近、辺防隊が密輸の取り締まりに熱を上げている」とし、「数日前には北朝鮮から薬草を受け取ろうとしたある商人(貿易業者)が、一晩中辺防隊のパトロールが終わるのを待ちながら機会をうかがっていたが、結局は引き返すしかなかった」と述べた。
中国の取り締まり強化について、この情報筋は正確な意図は不明としながらも、最近過熱気味の密輸を意識した「速度調整」の措置と見ている。密輸が過度に活発になるたびに、辺防隊が取り締まりを強化して流れをコントロールしてきた過去の経緯があるからだ。
中国は、北朝鮮が国ぐるみで密輸をしていることをある程度は把握し、取り締まりでコントロールしてきた。ただし、北朝鮮が密輸を夜中に行うこともあることを考えると、中国当局の預かり知らぬところでも密輸が行われているようだ。