北朝鮮の警察は、他人の財布の中身を覗き込むのがお仕事のようだ。
平安北道(ピョンアンブクト)の新義州(シニジュ)市安全部(警察署)は最近、市民の収入と支出の把握に乗り出した。
中央の社会安全省(警察庁)は、市民の収入と支出を把握せよとの指示を各道の安全局(県警本部)に下した。それが各市・郡の安全部を経て、各地域の派出所まで下された。
情報筋によると、安全員は管轄区域の情報員(スパイ)を使って、秘密裏に各世帯の調査を行っている。昼食や夕食の時に遊びに来たふりをして、食事の内容や持っている電化製品などをチェックし、生活水準を把握、報告させるのだ。
情報筋は、「公式の経済収入と生活水準の不一致といった疑わしい経済活動の状況を感知することが目的だ」(情報筋)と伝えた。つまり、国から割り当てられた職場で受け取る給料以上の生活をしていないか、密かに商売をしていないかと確認するのが目的だ。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)の会寧(フェリョン)市でも、同様の調査が行われている。
現地のデイリーNK内部情報筋は、「安全員たちは、少しでも裕福に見える世帯や、特別な商売をしていないのに食べるのに困っていない世帯を頻繁に訪ねている」と述べた。家を訪ねて生活水準を見定めるにとどまらず、「銀行口座の入出金履歴や貯蓄額まで調べている」と言われていると伝えた。
さて、なぜこのような調査が必要なのか。
北朝鮮当局は以前から、収入に比して支出が多い世帯を「リスク世帯」とみなし、監視対象としてきた。違法な経済活動で富を築いたのではないかとみなしていることだ。まじめに商売をして儲けたとしても、他の人より良い暮らしをしていれば、ただでさえ貧富の差が激しくなり国民の不満が高まっている中で、体制の維持に非常にリスキーだと考えているようだ。
密輸や海外送金など違法な経済活動で大金を稼いできた人々は、当局の監視を避けるために、派手な生活を避け、一見するとごくごく普通の人のように振る舞う。単なるボロ家に見えても、押し入れの中には米ドル札や中国人民元札が山積みになっていると言われている。
彼らは以前にも増して注意深くなっていて、「儲けても安心して食事すらできないこの現実は、呆れて苦笑している」と述べているという。資産を守るために、わざとギリギリの生活をしているということだろう。
今回の調査だが、当局のスパイ活動だと気づいている人もいて、「人々が飢え死にするのを心配して一生懸命回っているのなら何も言わないが、そんなことは気にせず、少しでも生活がましに見えると調査するのは全く理解できない」と批判している。
ある会寧市民は、「国が銀行の利用を推奨しておきながら、裏では銀行を通じて住民の事情を一つ一つ把握している。これで誰が信頼するだろうか」と当局のやり方を批判した。そして、「こうしたことを懸念して銀行を使わなかった人もいたが、今回はその判断が間違っていなかったと明らかになった」と皮肉った。
当局は、タンス預金、違法なヤミ両替をせず、資産は銀行に預けるように奨励しているが、むしろリスクが高まるため利用する人は決して多くない。
このような「金持ち取り締まり」の意図だが、単なる違法収入の把握ではなく、怒れる世論をなだめる目的もあるという見方もある。
情報筋は、「コロナ禍で生活難が全体的に深刻化する中、経済的に余裕のある世帯が余計に目立つようになった」とし、「ある家ではお粥さえ満足に食べられないのに、別の家では肉を食べているほど格差が広がった現実に対する不満を意識し、世論をなだめるための措置とも見られる」と語った。
だが、貧富の差が広がる根本的な理由は、時代遅れの中央集権的計画経済への回帰を目論んで、国民個々人の経済活動を制限していること、税金制度を廃止してより儲けた人から多くの税金を徴収して社会に還付するというシステムを断ち切ってしまったことなど、歴代政権の失政にある。