今月21日に北朝鮮の清津(チョンジン)造船所で発生した新造駆逐艦の進水失敗事故をめぐり、同国民の間で様々な噂が飛び交っていると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋はRFAに対し、清津市民の間では事故の話題でもちきりだと伝え、「形式を非常に重んじる金正恩が、自ら出席した行事が台無しにされたことで、どんな形で怒りをぶつけてくるか、皆が不安に感じている」と付け加えた。
北朝鮮当局はすでに朝鮮労働党の高官や造船所支配人らを拘束しており、成り行き次第では処刑や収容所送りもあり得る状況だ。
現地では、横倒しになった駆逐艦を見物しようと多くの人が港に駆けつけたが、入口にすら接近できなかったという。造船所のある水南(スナム)区域の漁港洞(オハンドン)一帯には、保衛部(秘密警察)と安全部(警察署)の要員がびっしりと配備され、人々を現場に近づけないようにしているとのことだ。
市民の関心は、「なぜあんな事故が起きたのか」ということに集まっている。清津造船所は規模、技術の面で南浦(ナムポ)造船所と並ぶ国内トップレベルの造船所だからだ。
情報筋によると、清津造船所は構造上、艦を後方へ滑らせて進水させられないため、横向きに滑らせて海に浮かべる「側面進水」の方式を取っており、過去に建造された大型艦はいずれもこの方式で進水してきた。
1990年代後半の経済危機「苦難の行軍」以前には、1万4000トン級の貨物船を10隻以上、1991年には2万トン級の船舶も建造している。だが、それ以降は大型船の建造ができず、技術が若い世代に継承されなかったようだ。
情報筋は、「今回の側面進水が失敗した原因について、人々は『苦難の行軍』以降、造船所で大型船を一隻も建造しておらず、ベテランの技術者が全員退職する一方で世代交代に失敗した結果、今いる技術者が側面進水の経験を持っていなかったためではないかと考えている」と語った。
なお、かつては敷地面積60万平米、従業員数2万人を誇る巨大な造船所だったが、苦難の行軍の頃に造船能力を喪失し、労働者たちは部品や設備を外して売り払ってしまった。ロシアからコンテナを作って欲しいとの注文が入った際にも、鉄板が手に入らず製造できなかったというのが、当時の従業員の証言だ。
現地の別の情報筋は、事故そのものもさることながら、当局が発生翌日に発表したことについて、非常に異例だと驚きを示している。
徹底した隠蔽体質の北朝鮮では、こうした事故の情報はほとんど公表されない。保衛部や安全部の関係者や目撃者の話から、口コミネットワークで全国に広がることがほとんどだ。
通常なら当局は、軍関連の事件や事故を徹底して隠蔽し、事実を知る住民の口を塞ぐのに必死になるところだ。しかし、「今回は行事に多くの人が参加して失敗を目撃していたため、迅速に公表されたのだろう」というのが情報筋の見立てだ。