北朝鮮の金正恩総書記が推進する「地方経済20×10政策」は、首都・平壌に比べて立ち遅れた地方経済の活性化を目標に行われている。各地では地方工業工場が建設中だ。
案の定、政策は思うように進まず、質が低い上に高価で手が出せない「欠陥商品」が生まれているという。だが、平安北道(ピョンアンブクト)塩州(ヨムジュ)郡の住民にとって、地方工業工場の建設は必ずしも悪い話ばかりではなかったようだ。現地のデイリーNK内部情報筋が、その内情を伝えた。
塩州では現在、地方工業工場の建設が真っ只中だ。建設工事が行われる際には、地域住民が「税金外の負担」と呼ばれる金品の提供や勤労動員を強いられるのが常だが、、今回は事情が異なるようだ。
情報筋によると、現場にいる作業員や管理者は、セメント、木材、鉄筋、釘などの建築資材を地域住民に横流しし、それと引き換えに現金、タバコ、酒、食料品を受け取っているという。
このような横流しは、北朝鮮社会を蝕む病弊の一つだ。建設工事に動員される多くの人々は、一切給料がもらえず、食料品は配給されても極めて貧弱だ。そこで建築資材を横流しして、自分の必要とするものと交換する。資材を公共財と捉える意識が希薄で、バレなければ構わないという感覚で横流しに励んでいる。
横流しを行うには、地域住民との密接な関係が必要となる。
情報筋は、「建設労働者たちは現地に長く滞在することで住民と頻繁に接触するようになり、必要に応じた取り引きが自然に行われている」と述べ、「お互いに条件をすり合わせながら物資を融通し合う相互扶助の雰囲気が広まっている」と語った。
工事現場の近くに住む住民たちは、建設労働者たちが横流ししたセメントや木材、鉄筋などを手に入れ、オンドル(床暖房)やかまど、煙突を修理したり、倒壊した倉庫を新しく建てるなど、この機会を逃すまいと、修繕に取り組んでいるという。
もちろん、住民が得られる資材の種類や量は、それぞれの住民の資金力など経済的な条件によって異なる。ただ、生活が苦しい住民も食べ物などと交換することで、少量の資材を確保し、それに見合った修繕を進めているとされる。特に、腕の立つ建設労働者が多数いる今は、格安で手を借りられる絶好の機会だ。
横流しは明らかに処罰の対象であり、実際に取り締まりが行われている。しかし、その取り締まりにあたる側も一定の取り分を得ることで、問題行為を黙認している。こうした構造は北朝鮮社会で昔から行われてきたため、横流しが盛んに行われているとの指摘がある。
情報筋は「取り締まりも結局はワイロを得るための手段であり、お互いに見て見ぬふりをしながら自分なりに生きていくことは、すでにここ(北朝鮮)では長年にわたり培われてきた生活の知恵だ」とし、「個人の利益を追求して生きることがもはや恥ずかしいことでもなく、抜け目なく盗んだり横取りしたりするのが、人々の現実となっている」と皮肉を込めて語った。
横流しは本来、施設の完成を遅らせるなどの弊害を伴う。だが北朝鮮では、当局が建てる施設の多くが住民の実生活に役立たないため、むしろこのような「抜け道」のほうが地域経済に恩恵をもたらすという皮肉な状況になっている。かくして、違法行為が国中で横行することになる。