韓国の外交、証券街関係者の間で最近、北朝鮮の金正恩総書記の「死亡説」が流れ、情報当局が否定に追われる出来事があった。

韓国の報道を総合すると、死亡説は27日に拡散され、その内容は「金正恩氏が江原道の元山(ウォンサン)で現地指導中に意識不明に陥った」などというもの。

さらにSNS上では、次のようなタイトルの文章が拡散されたという。

「CNN速報 金正恩氏が元山から平壌の専門病院に移送された」、
「脳出血で10日以上意識不明、回復は不可能」
「フランスの医師による手術を受けたが亡くなった」

中には、「親中の(北朝鮮)首脳部がこのことを中国に伝え、中国は親中派の金平一(キム・ピョンイル、金正恩氏の叔父)に権力を継承させると伝えてきた」という内容が含まれているものもあった。

韓国の情報当局者はいち早く「フェイクニュース」だと断定し、メディアの質問に答える形でこれを打ち消した。その後、北朝鮮国営の朝鮮中央通信は30日、金正恩氏が朝鮮労働党中央軍事委員会第8期第8回拡大会議(28日)に参加し、軍の砲撃競技(29日)を視察したと写真とともに報じている。

金正恩氏の「健康異常説」や「死亡説」が出たのは、今回が初めてではない。全く同じか、似通ったタイトル・内容のフェイクニュースが2020年4月と2021年7月に全世界的に流れたことがある。

今回の「死亡説」が出た背景は定かでないが、2020年4月のケースは米CNNのイタズラじみた報道が火付け役だった。

同年4月20日、韓国デイリーNKは「金正恩氏が心血管疾患で施術……。12日、国内の専用病院で」と題した記事を報じた。内容は、金正恩氏が同12日に心血管疾患の施術を受けたものの、術後の経過は良好だというものだった。この報道は当初、さほど注目を集めなかったのだが、これにCNNが「燃料投下」した。

デイリーNKのこの報道内容を、米国防総省に当てたところ、担当者から「注視している」との回答があったとするごく短い記事を、速報で出したのだ。

冷静になってみれば、この手の報道について、米国防総省の担当者が真偽も含め「注視する」のは当然のことだ。しかし、それを天下のCNNが、わざわざ速報したことが世の中に「深読み」を促し、関連報道の連鎖を誘った。

CNNはその後、「米当局が、金正恩氏は心疾患の手術後に合併症を起こして重体に陥ったらしいとみている」という内容に、報道を進化させる。

後に判明したとおり、この騒動の直後に公開された金正恩氏の写真では、手首に手術痕のようなものが見え、北朝鮮の医療陣でも問題なく行うことのできる「ステント手術」を受けていた可能性が示された。

その一方、「合併症を起こして重体に陥った」との見方は、何の根拠もなかったことが明らかになった。この時はほかにも、中国発と見られるガセネタが飛び交い、世界中が大騒ぎになった。

こうした経験から教訓を得たためか、その後、金正恩氏の「健康異常説」はこのときほど爆発的に拡散したケースは見られない。

このような出来事が繰り返される背景は様々あるだろうが、北朝鮮の情報統制がひとつの原因になっていると言えるだろう。2020年4月のケースにおいても、北朝鮮当局がさっさと否定して金正恩氏が姿を見せれば、事実は明らかになったのだ。

それにもかかわらず、金正恩氏は約3週間にわたり「死んだふり」をし、高みの見物を決め込んでいた。そんな金正恩氏だから、もしかしたら何らかの思惑から、自分の「死亡説」をわざと流すこともあるかもしれない。

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