清津(チョンジン)造船所で先月21日に発生した新造駆逐艦の「横倒し事故」に激怒した金正恩総書記は、4人の担当幹部を次々に拘束させた。それを見た地元の清津市民たちは、「また幹部のせいにするのか」と当局の手法に憤っている。

横倒しになり、ブルーシートがかけられた駆逐艦の無惨な姿を収めた衛星写真が、世界中のメディアで報じられた。この国際的な恥辱に、金正恩氏の怒りは相当なものだったとみられる。拘束された人物の命は、もはや風前の灯火と言っても過言ではない。

だが、地元の清津市民からは「何でもかんでも幹部に責任をなすりつける」当局のやり方に批判の声が上がっていると、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

地元では、この事故の話題で持ちきりだ。市民は、「成功すれば首領(金正恩氏)の功績、失敗すれば幹部の責任」と皮肉っていると情報筋が伝えた。

市民はまた、「大胆に仕事を進めろと言いながら、小さな失敗で全責任を押し付けて拘束するのはやりすぎだ」「人間はロボットじゃないのだから、毎回成功できるわけがない」「『失敗は成功の母』という格言もあるではないか」などと、幹部にすべての責任を負わせる当局の姿勢を批判している。

さらに市民からは、駆逐艦の進水失敗を「国家の威厳と自尊心の失墜」などと政治問題に仕立て上げる当局の姿勢に、あまりにも酷だとの批判が出ている。

実際、北朝鮮当局は、金正恩氏が出席する「1号行事」であったにもかかわらず、じゅうぶんな事前点検や準備が行われなかった点を「忠誠心の欠如」とみなしているという。こうなると、単なる業務上過失ではなく、政治犯として扱われることになる。

情報筋は「この国(北朝鮮)では首領への忠誠心を示すうえで、ひとつのミスも許されない」「今回の行事は元帥様(金正恩氏)が直々に出席し、お嬢様まで同行していたため、非常に重みのあるイベントだった。そんな場で事故が起きた以上、いっそう深刻な政治的失策と見なされたのだろう」と語った。

北朝鮮において、金正恩氏は無謬の存在で、本人が認めない限り、何人たりとも責任を問うことはできない。そのため、「金正恩氏は完璧だが、その指示をきちんと実行できなかった」として、幹部に責任がなすりつけられ、最悪の場合、処刑される。

しかし清津市民からは、「彼ら(幹部)だって元帥様に成果を見せるため、昼夜問わず準備していただろう。たった一度の失敗で政治犯のように扱うのは理不尽だ」という声も上がっているという。

金正恩氏は、今月下旬に開催される朝鮮労働党中央委員会の総会までに駆逐艦の修復を命じたが、難しいだろうとの指摘がなされている。責任の波紋は、中央の高官にまで及ぶかもしれない。

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