先月21日、北朝鮮の清津(チョンジン)造船所で発生した駆逐艦の進水失敗事故。新造した艦が横倒しになる様を目撃した金正恩総書記は激怒し、今月下旬に開催される朝鮮労働党中央委員会の総会までの復旧を命じた。

そして米国の北朝鮮分析サイト「38ノース」は3日、衛星写真の分析結果から、駆逐艦が直立の状態に戻されたと明らかにした。

しかし、作業は理不尽な指示を繰り返す正恩氏の介入によって混乱を極めていたと、デイリーNKの現地情報筋が伝えている。

党軍需工業部の幹部2人は、事故発生直後に、「転覆した艦を総会までに立て直すためには、ロシア製クレーンの導入が現実的かつ迅速な策だ」とする報告書を党中央委員会書記局に提出した。

立て直しに600トン級以上のクレーン4基が必要だが、清津はロシアに近く海上貿易の実績もあることから、ロシア側が協力さえしてくれれば、クレーンの導入は難しくないととする内容だ。ところが、2人は5月25日に解任・撤職(罷免)された。報告書を目にした金正恩氏は激怒し、こう言い放ったという。

「事故のことを全世界に公開しただけでも面目を失っているのに、そこへ外国のクレーンまで導入するのは国の恥を重ねることではないか」

実際、38ノースによると作業は人力で、5月29日の画像では、作業員が岸壁で駆逐艦につないだとみられるロープを引いていたという。

消息筋によれば、罷免された2人はいずれも名前を聞けば誰もが知るような比較的高位の幹部だったが、その処分について、北朝鮮の国営メディアはいっさい報じていない。

正恩氏の苛烈な反応が、現場にさらなる混乱をもたらしている。

情報筋は、「軍需工業部も清津造船所も、今は大混乱でてんやわんやの状態だ。下手なことを口にすればすぐに首が飛ぶので、みな身をかがめている」と語った。

事故の責任を問われ、すでに軍需工業部のリ・ヒョンソン副部長ら4人が拘束されており、幹部たちは皆、『明日は我が身』とばかりに、火の粉を避けるのに必死だ。

また、処罰を恐れて責任を押し付け合い、艦の損傷状況を過小報告するなど、事実の隠蔽も図っている。

中央には「6月中旬までには修復可能な軽微な損傷」と報告されているが、実際には船底の外板が約12メートルにわたって歪み、船底に破孔が生じたところもある。また、補助発電室、兵士の居室、艦橋下の制御室が浸水し、甲板上の電子通信装備や固定アンテナも破損したという。

党機関紙・労働新聞は先月23日、「当初の発表と異なり、船底に破孔はなく、船体右舷に擦過傷」と伝えているが、実際には破孔があったというのが情報筋の話だ。

さらに情報筋は、「燃料タンクには問題がなかったと報告されているが、現場では『まだ確証はない』との声も出ている。もし燃料タンクが破れていたら大惨事だ。担当者の大量粛清につながりかねず、皆、心臓が凍る思いをしている」と話した。

船底の破孔による浸水であれば、艦の完全な復旧には数カ月かかると見られる。ただし、内部報告書には「隔室の排水は5日以内に完了でき、損傷した外板の交換や溶接補強には7日を要する。今月上旬までにその他装備の再組立と試験も完了可能」との記述があるという。

軍需工業部と清津造船所は、今月下旬の党中央委員会総会までに、修復済みの艦の外観を写真と映像で報告する計画を立てているという。

情報筋は「上から指示が下った以上、何があっても今月の総会までに艦を立て直し、外観を修復しなければならない」と述べた上で、「外観だけなら何とかなるだろうが、機能を完全に回復させるにはどれだけ時間がかかるか、誰にも分からない」と述べた。

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