北朝鮮で運転免許を取るのは至難の業だ。自動車養成所(自動車学校)で運転や整備の技術を学び、試験に合格して初めて免許が得られる。
こうした不正取得に対する取り締まりが進んでいると、デイリーNKの内部情報筋は伝えてきた。
正規の免許取得費用は等級によって8000北朝鮮ウォン(約51円)~2万5000北朝鮮ウォン(約159円)と定められているが、担当者の食事代、燃料代などの名目で「追加費用」がかかる。カネとコネのある富裕層の子どもが、試験なしで免許を得るケースもある。
しかし、自動車養成所は先月から実技試験場に撮影機器を設置し、不正行為の防止に乗り出した。試験監督官も癒着を防ぐための配置換えを行い、透明性の向上を図っている。
情報筋は、「平壌で事故が起きれば免許発行機関まで追及され、責任者が処罰される。いまや不正取得は難しくなっている」と、情報筋は語った。
北朝鮮当局は、ワイロなどの不正によって不当に免許を取得した運転者が「1号車(=金正恩総書記の専用車)」と同じ道路を走行すること自体が、「体制の安全を脅かす深刻な行為」だと認識しているという。
情報筋は「平壌でワイロやコネで免許を取得することそのものが、『首領(金正恩氏)の安全を脅かしかねない行為』とみなされる」とし、「無資格者が車を運転するということは、事実上、最高指導者への体制的脅威と見なされる」と述べた。
こうした状況を受けて、北朝鮮当局は複数の制度改革を検討している。具体的には①従来は1級から4級まで分かれている免許等級の統合と簡素化、②教育期間の短縮、③電子登録制の導入、④統合電子ネットワークの構築、⑤インテリジェント監視端末とカメラの設置、などだ。
年末までに、すべての運転免許保有者と車両情報を統合管理するシステムと、免許証の偽造を防ぎ、無許可運転を取り締まる監視体制の導入を検討する一方、中国の先進的な交通法制度の一部を参考にして、北朝鮮式の管理方法の構築を模索しているとされている。
これはデジタル監視体制への移行とも言える。
情報筋は「統合電子ネットワークの導入は、表向きは交通秩序の整理と行政の効率化だが、実際には住民統制を強化するための戦略的措置と見るべきだ」と述べ、「車を借りて乗る若者が増え、女性までが車を運転しようとする中で、こうした流れをある程度コントロールしようとする意図が明確にある」と指摘した。
平壌の一部の輪転機材奉仕所(自動車修理工場)は、レンタカーサービスを始めた。和盛(ファソン)区域にある峨嵋山(アミサン)自動車技術奉仕所は、金正恩氏の方針に則り、レンタカーサービスを始めた。料金は24時間で100ドル(約1万4300円)だ。平壌市内にはすでに5か所のレンタカー屋ができ、咸興(ハムン)や元山(ウォンサン)など地方都市でも試験営業が始まった。
このサービスは富裕層の若者に人気で、免許取得ブームの引き金となっている。これにより不正取得が増加し、今回の取り締まりにつながった。
国民の多くは日々の糧を得るのに必死だが、平壌の富裕層は優雅にドライブを楽しんでいる。こうした優遇措置は体制の中枢を担う層への特権ともなり、貧富の差をさらに浮き彫りにする。ひいては、社会や体制に対する不満の高まりを招きかねない点も、当局は意識しているのかもしれない。
一方、北朝鮮当局は電気自動車や電動バイクの普及に対応した新たな免許制度の創設も進めているとされる。従来の内燃機関用の免許とは異なり、バッテリーの安全性、充電のルール、バッテリー切れへの対応方法などを含んだ教育と新たな試験基準が準備されつつあるというのが情報筋の話だ。