3日に投開票が行われた韓国大統領選挙では、野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)候補が全体の49.42%を得票し、次期大統領に当選した。与党「国民の力」の金文洙(キム・ムンス)候補は42.73%、同党から分派と言える保守系野党「改革新党」の李俊錫(イ・ジュンソク)候補は7.38%を獲得した。
前回の選挙では、尹錫悦(ユン・ソンニョル)候補が48.56%、李在明候補が47.83%の得票率を記録していた。この7カ月間は緊急戒厳、弾劾、そして大統領選と激動が続いたが、今回の得票率を見る限り、李候補の勝利は「圧勝」とは言いがたく、新たな「分断の時代」の始まりとも言えるだろう。
約3万4000人に達する脱北者(2025年3月時点、統一省調べ)の投票傾向についての詳細な分析は、まだ明らかになっていない。脱北者全体が「保守政権と癒着する存在」として一括りに非難されがちだが、現実は必ずしもそうではない。
やや古いデータではあるが、2012年の大統領選挙では、保守系のセヌリ党(現・国民の力)の地盤である大邱市や慶尚北道に住む脱北者の95.8%が朴槿恵(パク・クネ)候補に投票した一方で、進歩系の民主統合党(現・共に民主党)の地盤である光州市や全羅南道に住む脱北者の51.5%は文在寅候補に投票していた。
このことから、脱北者が一律に対北強硬姿勢の「国民の力」を支持しているわけではなく、居住地域の政治的傾向に大きく影響されていることがわかる。
一方、朴槿恵前大統領の弾劾を受けて行われた前々回の大統領選で当選した文在寅氏は、南北融和を優先するあまり、国内の北朝鮮人権運動には極めて消極的な姿勢を取った。2019年には、16人の乗組員を殺害した脱北船員を、裁判も経ずに北朝鮮に強制送還するという決定を下している。
これは、北朝鮮出身者であっても「韓国国民」として扱うとする憲法および国籍法の原則を根本から揺るがすものであり、脱北者の法的地位と人権保障に対する国の信義を大きく損なった事件であった。
また近年では、李明博・朴槿恵政権下で一部の脱北者が政権不正に関与していたとの報道を機に、脱北者全体が「保守と癒着する存在」として非難され、激しいネット上の攻撃や社会的排除にさらされるケースも見られる。
本来、国家に守られるべき「国民」としてではなく、時に政治的な駒として、時にスケープゴートとして扱われる脱北者たち。その投票行動は、韓国社会の歪みを映す鏡でもあるのかもしれない。
一連の出来事が、前回および今回の大統領選挙における脱北者の投票行動にどのような影響を与えたかについては、今後の分析が待たれる。
一方で、北朝鮮における選挙は、最高人民会議(国会に相当)の代議員選挙が4~5年ごと、地方人民会議(地方議会に相当)の代議員選挙が4年ごとに行われることになっているが、実態は、候補者の顔や経歴はおろか名前すら知らされず、無記名の賛成票を投じるだけの儀式的なものである。
仮に反対票を投じたい場合は、記載所で投票用紙にバツ印をつけ、それを衆人環視の中で投票箱に入れなければならないが、そんな行動をすれば一家もろとも忽然と姿を消し、今後の選挙権どころか生存権すら奪われかねない状況に置かれる。
そうした「選べない選挙」しか経験したことのない北朝鮮の人々の目に、韓国の選挙はどのように映るのだろうか。