北朝鮮は2023年、刑法を改定したが、韓国法務省はこのほど、全329条にわたるその条文ごとに分析した「北朝鮮刑法注釈」を発行した。1128ページに及ぶこの資料は、韓国の刑法学者や法律家が参加し、条文ごとの構成要件や改正の経緯、韓国・ロシア・中国・ベトナムの刑法との比較法的研究も盛り込まれ、北朝鮮の刑事法体系を立体的に捉えられるようにしたものだ。

まず、注目すべきは死刑が適用される犯罪が11から16に増えた点だ。その中には、「反韓流法」として知られる「反動思想文化排撃法」も含まれている。

この法律は、「チャンマダン(市場)世代」と呼ばれる若者を中心に、韓国ドラマ・映画、バラエティ、K-POPが流行し、韓国式の言葉遣いも広まるなど、韓国文化の流入に歯止めがかからない危機感から、2020年に制定されたものだ。コンテンツの流通などにかかわった場合、最高刑を死刑と明記されている。

実際、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は2022年12月3日、北朝鮮の両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)市で韓流ドラマや映画などを視聴し、拡散させたとして摘発された高校生ら3人が、同年10月に公開処刑されていたとする衝撃的な情報を伝えている。

同法の制定に伴い、既存の刑法にあった退廃的文化搬入罪、流布罪は削除された。

また、「麻薬犯罪防止法」では薬物の密売に死刑を適用する条文が含まれている。

北朝鮮は、1992年から故金正日総書記の指示で、外貨獲得を目的にアヘン栽培、覚せい剤製造を始めたが、国内に横流しされたことで中毒者が急増した。これが厳罰化の背景にあるとされている。

一方、変化した南北関係が反映された部分もある。

北朝鮮は刑法から「朝鮮民族解放運動弾圧罪」などの条項を削除した。これは南北統一に関する表現が含まれていた条文で、2023年12月に開催された朝鮮労働党中央委員会総会において、南北関係を「敵対的な二国家関係」と公式に宣言したことに基づく改定とみられる。

このほかにも、国旗・国章毀損罪をを新設し国家の象徴保護を強化したほか、マネーロンダリングやテロへの資金供与に関する条項など、国際社会の制裁を反映した内容も盛り込まれた。

今回の資料は、北朝鮮社会における変化と、それに伴う社会統制の強化のあり方を体系的に読み解くことができる内容となっている。

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