最近の北朝鮮の市場では、顧客獲得競争が熾烈になっている。当局により、穀物、電化製品などの儲かる商品の販売が禁止された上に、現在行われている田植え戦闘(農村への動員)により、市場の営業時間も制限されているため、売上を確保しようと商人たちが必死になっているためだ。

平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋によると、首都・平壌郊外の物流の中心地、平城(ピョンソン)の市場では、客より商人の方が多く、数少ない客を商人同士が奪い合い、ついには喧嘩になるケースもある。

その中には、暴力沙汰にまで発展する例もあるという。これに関連して、情報筋は「何年も商売がうまくいかず苦労したせいか、最近では他の商人の常連客まで奪っていく」とし、「常連まで取られて怒った商人が、相手の髪をつかんで取っ組み合いになることもしばしばだ」と語った。

平城駅前市場では先月25日の午後5時過ぎ、40代の商人Aさんと、50代のBさんの間で大きな争いが起きた。

2人共靴を扱っているが、Aさんは売台(ワゴン)にやって来た客に商品の説明をしていたところ、Bさんは、客の横にさりげなく近づき、Aさんよりも安く売るとジェスチャーで示した。

それを見たAさんは激怒し、売台を飛び越えてBさんの髪を掴み、大喧嘩となった。周りの商人が諌めて喧嘩は収まったが、様子を見ていた客はドン引きしたのだろうか。すでに立ち去っており、二人とも結局何も売れなかった。こうした混乱に嫌気がさし、客が買わずに帰ってしまうこともしばしば起きている。

かつて、市場の商人同士は商売敵ではあったが、とても仲良くしており、売台のスペースが足りないと困っている商人に、スペースを貸してあげるほどだった。

情報筋は、「家族の生計がかかっているだけに、商人たちは一つの商品を売るために死にものぐるいで食らいつく」とし、「経済的困難が続く中で、商売がますます過酷で熾烈な生存競争になっている」と語った。

同様の状況は、平城と並ぶ全国有数の巨大市場を擁す咸鏡北道(ハムギョンブクト)の清津(チョンジン)でも起きている。

現地のデイリーNK内部情報筋によると、もともと市場は口論や盗難が多く、混乱しやすい場所だが、最近はこれまでに見られなかった現象も起きているという。

「最近は市場にも世代交代の波が訪れており、若い女性が母親の代わりに出てきたり、新たに売台を購入して商売を始める例が増えている」
「売台に、見た目の整った若い女性が座っていれば視線が集まるが、そうした女性たちが、母親と同世代の商人の間に座っていると、客がみんなそちらに集まってしまう」

販売競争の激化により、若さや外見までもが集客手段として利用されるようになっている。

情報筋は「最近は田植え戦闘への動員のせいで商売の時間が減り、商売がさらに難しくなり、喧嘩が増えているようだ」とし、「家族を養う責任を負っている人々を突撃隊(半強制の建設ボランティア)などに無理やり動員せず、せめて安心して商売ができるようにしてほしいという声が出ている」と語った。

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