北朝鮮・咸鏡南道(ハムギョンナムド)の金野(クミャ)郡に住む20代女性が、俳優と歌手の外見について話したことを理由に、思想闘争の場で断罪される事態に陥った。
現地のデイリーNK内部情報筋によると、郡内の農場の青年同盟が先月末、思想闘争会議を開いた。
この日の壇上に立たせられたのは、20代女性のAさんだ。彼女は先月中旬、友人とともに俳優や歌手についておしゃべりをしていた。
Aさんは、映画「壬辰年の高麗人参掘りたち」の主演俳優キム・ウォニルを、「顔が白くてかっこいい」と話し、モランボン楽団の歌手リュ・ジナを、「新時代の感じがする」と話した。この発言が問題視されたのだ。
農場の青年同盟の委員長は、Aさんを呼び出してこのように詰問したという。
「『新時代の感じ』とは何なのか」
「男性俳優の顔が白くてかっこいいというのは、社会主義を蝕む危険な毒素だ」
そして、「若者の間で芽生える反動的文化要素を許してはならない」とし、「ブルジョア的感情を口にする行為は、社会主義の生活様式を乱す態度だ」と強く非難したという。
些細な発言のせいで吊し上げに遭い、郡の青年資料の講演資料にまで取り上げられてしまった。実名を挙げて「悪い例」として晒し者にされてしまったのだ。
情報筋は、「Aさんは普段から農場の仕事にもまじめに取り組み、性格も明るく評判が良かったが、この事件をきっかけに不名誉なかたちで有名になってしまった」と残念がった。
しかし、地域の若者たちは、Aさんをこてんぱんにした委員長の方に問題があると考えているようだ。この程度の発言を問題視して吊し上げにしたのは、さすがにやり過ぎという理由からだ。
情報筋によると、上の世代が使っていた「ハンサムだ」「ガッシリしている」「革命性がある」「戦闘的気概が湧き上がる」という褒め言葉は今の若者には陳腐な言い方と受け止められる。
若者は、「かっこいい」「ドキドキする」「いい感じ」「新時代の感じがする」という表現を好むようになっている。
情報筋は、「こうした言葉の変化は自然なものであり、これを思想の問題と結びつけて不快だと言うのは行き過ぎだという人もいる」とし、「こんなことを取り締まって批判すれば、むしろ若者の反発を買う」と述べた。