北朝鮮の分駐所(日本の交番に相当するが、より強い監視・統制機能を持つ)の安全員(警察官)に対して、「もっと積極的に動け」という指示が下された。これに対して、住民からは強い不満の声が上がっている。
一般的な国では、警察官がパトロールの頻度を上げれば、地域の安全が高まり住民の安心感も増すものだ。だが、北朝鮮では逆に不安や不満が広がってしまう。それはなぜなのか。詳細を咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
咸鏡北道安全局(県警本部)は先月末、道内の分住所の所長を集めて会議を開いた。その場で下された指示は次のようなものだ。
「分住所の安全員たちが机に座って形式的に仕事をしているだけの状態を改めさせろ。現場に行かせろ」
また、「事務仕事は土曜日だけにせよ」との指示も下された。これらの指示は、住民の取り締まりと統制をさらに強化する意図によると見られている。
これを受けて、中国との国境に接する会寧(フェリョン)など、道内各市・郡の安全員は、管轄区域の人民班(町内会)の各世帯を巡回し、住民の生活実態、外部の人間との接触の有無、非社会主義的要素(当局が考えるところの社会主義にそぐわない風紀の乱れ)の浸透がないかなどを綿密に点検している。
このような家庭訪問が頻繁になるにつれ、住民たちは不満をあらわにしている。
ある会寧市民は、「市民生活に役立つことでもないのに、なぜ安全員がしょっちゅう家庭訪問をするのかわからない。
こうした住民の不満は、道内最大都市の清津(チョンジン)でも噴き出している。
清津市民の間でも、「日常を監視していると見せつけて、人々をますますがんじがらめにしようとしているのだ」といった否定的な声が、相次いでいる。
今回の指示の背景には、「民心が離反し、動揺が深刻化している」という当局の危機意識があるという見方がある。
情報筋は、「最近は保衛員(秘密警察)が、収入に比べて支出が多い世帯を重点的に調べて監視しているが、安全員までが一緒になって頻繁に家庭訪問をしている。ここ数年、違法な商売で大金を得る人が増えて、住民間の経済格差が広がっており、その副作用が起きないように監視を強化しているのだ」と付け加えた。
当局のこうした監視は、少しでも贅沢に見える生活に対して違法行為の疑いをかけるという前提で行われている。そのため、住民にとっては「財布の中身を覗かれているような」感覚に近く、強い反発を招くのは当然だ。
情報筋は、「わが国(北朝鮮)は、資本主義のように力や権力のある者だけが豊かに暮らすのではなく、誰もが平等に豊かに暮らせる『社会主義の国』だと言っているが、現実はまったくそうではない。宣伝とは違い、貧富の差が拡大しているからこそ、国は保衛員や安全員を使って住民をさらに厳しく監視しようとしているのだ」と語った。