数ヶ月に及ぶ冬季訓練を終えた朝鮮人民軍(北朝鮮軍)にとって、次の大きな課題は食糧の確保だ。

所属の兵士たちはこの時期、農場で田植えを手伝い、秋には軍糧米(軍向けの穀物)を受け取るが、その量は充分でない。

農民にとって軍糧米の供出は、無償で作物を奪われるようなものだ。

そこで収穫量を偽ったり、運び出す際に隠したりして手元に残し、それを市場に売って現金収入にするのだ。また、輸送担当者も穀物を横流ししたり、価格の安い別の作物と勝手に取り替えたりする。かくして、末端の兵士は飢えに苦しむことになる。

各部隊は、基地のすぐそばに「副業地」と呼ばれる田畑を持ち、おかずとなる野菜などを栽培して、食糧の足しにする。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の清津(チョンジン)に駐屯する第9軍団では今年、副業地に蒔く種が不足し、兵士を急遽、実家に帰して調達させる事態に陥った。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

情報筋によると、部隊では白大豆の種蒔きが目前に迫っているが、種子が全く足りないため、軍団の指揮部は今月1日、隷下の部隊に対して、一部の兵士に数日間の休暇を与えるよう指示。その上で、「大豆の種子を確保できる兵士だけを選抜し、休暇を与えて故郷に戻らせること。ただし、実施は極めて静かに行え」と命じた。

これを受け、各中隊は経済的に余裕のある兵士を最大2人選び、引率する軍官(将校)とともに実家に帰し、15日までに大豆200キロまたはそれに相当する現金を持ち帰るよう求めた。

先立って第9軍団はこの指示を下すにあたり、「これは表彰による休暇ではなく、副業地の農作業に必要な物資不足によって実施する内部休暇であり、絶対に秘密にせよ」と強調したとされる。

特に、種子確保を目的とした休暇であることが広まった場合は、担当する行政指揮官も処分の対象となることを覚悟せよとの警告もあったという。

そのため、各部隊では選ばれた兵士たちに対し、「これは種子調達のための休暇であることを誰にも口外してはならず、地元にいる両親の見舞いに行くなどと、もっともらしい理由を作って、他の兵士たちに気づかれないようにせよ」と繰り返し念を押した。

朝鮮人民軍では、不足しているものを確保するために、「実家の太い」兵士に頼る手法がよく使われている。親も子に何も持たさずに帰らせれば、部隊に復帰してからどんな報復に遭うかわからないとの恐怖感から、必死で金品をかき集める。そんな思いをしてでも、実家に帰れるだけまだマシなのだ。

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