北朝鮮は国連安保理の制裁により、車両や部品を正式に輸入できなくなった。そこで、朝鮮労働党、安全局(警察署)、保衛局(秘密警察)、税関、貿易会社など国家機関が一体となって、中国から両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)に中古車を持ち込む「国家密輸」が行われてきた。
ところが、中国側の取締り強化に伴い、今年5月から中断を余儀なくされている。北朝鮮の市場に流通する商品の9割以上は中国製であり、中国の対応次第で北朝鮮はたちまち窮地に追い込まれる。
特に中古車や部品の価格が大幅上昇し、莫大な損失を被る業者や個人も出ており、その余波はなおも広がっている。
両江道のデイリーNK内部情報筋によると、恵山市内での中古乗用車1台あたりの価格は、1カ月で7万元(約150万5000円)から8万5000元(約182万7500円)へと上昇している。中古トラックや乗合ワゴン車は、2万元(約43万円)もの値上がりとなった。部品価格も1カ月で500元(約10750円)上昇したという。
情報筋は「国家密輸が止まる直前に車両を仕入れた密輸業者や、それを買い取って転売している卸売業者が、車がこれ以上搬入されないことを見越して価格をつり上げている」と語った。
さらに、「車を買おうとしている人たちは、今のうちに購入すべきか、それとも価格が下がるのを待つべきかで迷っている」と述べた。ただし、「価格が高いため、値上がりしたままの価格で買おうとする人はあまり多くない」と付け加えた。
一方で、「国家密輸がいつ再開されるかわからない」「買うなら今だ」といった噂が広がり始めており、「買い急ぎの動き(いわゆるパニック買い)の兆しも見られる」という。
こんな状況下で、密輸に携わる業者の間では困惑と焦りが広がっている。
デイリーNKの中国の情報筋は、「今月に入ってから国境の取り締まりが先月よりはるかに厳しくなった」と伝えた。
情報筋によれば、鴨緑江をはさむ主要な密輸ルート、恵山と吉林省長白朝鮮族自治県では、辺防隊(国境警備隊)と吉林省公安局による取締りが一段と強化されている。
情報筋は「当初は、密輸でさまざまな商品が大量に渡っていたため、一時的に辺防隊による取締りが行われているだけだと思っていた。だが、省公安までやって来たことで、ここ中国では『北朝鮮と関係が悪化しているのではないか』という声が上がっている」と語った。
北朝鮮がロシアに派兵してウクライナ侵攻に参戦した一方、北朝鮮と中国の関係は冷え込んでいると見られている。
北朝鮮のロシアへの接近を快く思っていない中国が、経済面で圧力をかけているものと見られている。
中国の貿易業者の間では、「取締りの強化は両国間の信頼関係の弱体化によるものだ」という見方が広がっているが、辺防隊も公安も具体的な理由や背景をいっさい明かしておらず、中国側の業者たちも困惑しているという。
こうした中で、北朝鮮側の密輸業者たちも焦りを募らせている。両江道の情報筋によると、「密輸業者の中には、中国から物資を買い付けるために数十万から数百万元の資金を利子付きで借りて中国に送っており、密輸の中断が長引くほど、利子の負担が雪だるま式に膨れ上がっている」とのことだ。