北朝鮮では表向き、食べ物を販売できるのは当局に公認された市場や食堂、プレハブ形式の簡易売店に限られているとされているが、実態は異なる。

路地裏や踏切のそばなど、さまざまな場所で人々が店を開き、食べ物を売っているが、最近は夜に路上でパンなどを売る人が増えている。

物価が高騰し、従来の商売が成り立たなくなっていることが背景にあると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

咸鏡南道(ハムギョンナムド)の情報筋は、「日が暮れると、市場周辺や駅前など、人が集まったり通りかかったりする場所や路地に、食べ物を売る商人たちがずらりと並ぶ。人造肉飯や豆腐飯など、自宅で製造したものを売っている」と伝えた。

屋台での食品販売は、元手がかからないため、貧乏人の商売、生きていくのに必死な人がやる商売との認識が持たれているとのことだ。

売れ残ったものは自分で食べるため、飢えることはないが、それでは赤字になってしまう。どうにかして売り切るために、夜遅くまで営業するのだという。

情報筋は、弟の家に行ったときに見かけた光景について話した。夜10時ごろに帰ろうとしたら、まだ商売を続けている人がいて、彼女らが客を引こうと、自分の商品を強く勧めたり、場所を巡って争ったりしているのを見て、胸が痛んだと話した。

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、建設現場で資材を運んだり、レンガを積んだり、モルタルを塗ったりする仕事は、日当が2万北朝鮮ウォン(約113円)から2万5000北朝鮮ウォン(約141円)、美装工事、電気コードの設置など技術の必要なものなら3万北朝鮮ウォン(約170円)になる。

一方、食べ物を売る屋台を手伝っても、日当は1万5000北朝鮮ウォン(約85円)にしかならない。それでも、2~3日働ければ国営の工場、企業所、機関の月給に相当する額が手に入る。

当局は昨年、最高で20倍近い賃上げを断行したが、通貨供給量が急増したことで、深刻な通貨の価値下落とインフレに見舞われ、賃上げ分は事実上相殺されてしまった。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の別の情報筋は、慶興(キョンフン)でも食べ物を売る商売を始める人が増えたと伝えた。その背景にあるのは、物価高騰による生活苦だ。

「昨年まで1キロ最高7000北朝鮮ウォン(約40円)だったコメ価格が、今では1万2000北朝鮮ウォン(約68円)以上になった。他の物価も軒並み跳ね上がった。全体的に商売がうまくいかないので、生活が苦しい人たちが最後の手段として食品販売に頼っている」と語った。

それ以外にも山で採取したゼンマイなどの山菜、衣類、玩具、雑貨を売っている人もいる。

情報筋は先日見かけた女性が、キュウリの冷製スープのトウモロコシ麺(カンネングクス)を売っていて、少量だが涼しげでよく売れていたと伝えた。また、人造肉飯や蒸しパンを売っている人も多い。小麦粉1キロで蒸しパンが20個から30個作れるが、野菜を入れると小麦粉の使用量を抑えられるうえに、売値も上げられてより儲けが多くなる。この蒸しパンは、1個あたり1000北朝鮮ウォン(約5.6円)で販売されている。

市場ではなく、路地裏などでの露天商が人気なのは、売台(ワゴン)のレンタル料や市場管理税を支払うだけの利益が見込めないためだ。さらに、営業終了後に品物を市場に置いていくには保管料の支払いが求められる。

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