北朝鮮・咸鏡北道(ハムギョンブクト)の清津(チョンジン)造船所で先月21日に行われた進水式で、横倒し事故を起こして無惨な姿を世界に晒した新型駆逐艦「姜健(カンゴン)号」だが、復旧が完了し、今月12日に羅津(ラジン)造船所で改めて進水式が行われた。

だが、近隣住民の間では、早逝した軍総参謀長の名を冠していることから、「不吉だ」「どうせまた壊れる」などと言った噂話が絶えない。

当局は取り締まりに乗り出したものの、人の口に戸は立てられないものだ。

一方で、今回の事故が金正恩総書記の相当な怒りを買ったことで、粛清の嵐が吹き荒れるのではないかという不安が渦巻いていると、複数のデイリーNK内部情報筋が伝えている。

事故を起こした清津造船所では、従業員全体が息を潜めていたが、進水式が成功したことで「当面は誰かが連行されることはないだろう」との安堵の空気が漂っている。情報筋によると、進水がうまくいったという話を聞いた人々は「よかった」と言葉を交わしつつ、目配せでお互いの無事を祝った。幹部はもちろん、現場の技術者、労働者も粛清への恐怖を抱えているということだろう。

だが、安心するのはまだ早いかもしれない。

北朝鮮国営の朝鮮中央テレビは13日、姜健号の進水式の様子と共に、金正恩氏が今年3月に行った艦船建造事業を現地指導した様子を再び放映した。だが、正恩氏と共にいたはずの金明食(キム・ミョンシク)海軍司令官とホン・ギルホ造船所所長の姿が削除されていたと、米国の北朝鮮専門メディア「NKニュース」が報じた。

北朝鮮が公表した以上に、粛清の手が広範囲に及んでいるのではないかとの見方もある。

そんな恐怖政治に地元の清津市民は批判的だ。

咸鏡北道の別の情報筋は、「清津造船所で進水に失敗したとき、元帥様(金正恩氏)が激怒して、幹部や技術者が拘束され取り調べを受けたが、『技術者は国の宝なのに、粛清して何の意味があるのか』と、処罰一辺倒の国の対応に対し、非難の空気が広がった」と述べた。

また情報筋によると、ある清津市民は「(朝鮮労働)党を母、元帥様(金正恩氏)は父と呼べと言うくせに、少しのミスで即座に処罰するなんておかしい。

普通の親たちも子どもが転んだら駆け寄って立たせるというのに、『母なる党だ』のやっていることはどうだ」と罵っていたという。

一方では、北朝鮮当局が軍事力の増強に向けて大切な物的・人的資源を投入していることへの批判の声も上がっている。

今回の進水式を報道で見た地元住民は、「核があればすでに強国だというのに、なぜまだ軍事力を拡大し続ける必要があるのか」「日銭で暮らす人々は、進水式にも核にも全く関心を持たない」と批判的な姿勢を示したという。

情報筋は、「働いた分だけコメと給料をくれるなら、それ以上のプロパガンダは必要ないし、それこそが本当の強い国ではないか」と述べ、見せかけの政治と恐怖統治にばかり執着する北朝鮮当局を批判した。

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