北朝鮮・平壌の若者の間で進むキャッシュレス化に対し、当局が危機感を抱き、緊急の取り締まりに乗り出した。キャッシュレス化を推進してきたはずの当局が、なぜ今それを問題視するのか。
情報筋によれば、平壌市安全部は今月16日、若者の間での電子決済の急拡大を受けて、学校の青年同盟や少年団に遵法教養資料を配布した。市安全部と教育省は今年に入り、高校生の決済実態を調査。電子決済が青少年に非社会主義的影響を及ぼすとの結論に至り、思想教育を始めた。
資料によれば、幹部子弟の多い牡丹峰区域や中区域で、1人あたり月平均22~25回の決済が行われ、半年で150回を超える例もあった。用途は学校前の売店や市場、私設ゲームセンターなどで、飲料やおやつ、ゲーム代が中心だった。
当局は、金銭的に余裕のある生徒どうしがグループを作る傾向や、消費を当然視する風潮が、価値観の形成に悪影響を及ぼすと判断した。思想の乱れが懸念されるということだ。
資料では「金さえあれば何でもできるという考えは、先烈たちの自力更生精神の継承を弱める」と警告。生活総和(総括)の時間を通じて、学校が学習と教養の場であることを生徒に再認識させる方針だ。
一方で、日常的な消費まで「非社会主義」と決めつけるのは現実を無視した対応だという批判も出ている。保護者からは「電子決済は単なる好奇心であり、資産管理への関心の表れだ」との声もあり、10代の銀行口座開設数と預金額が前年より増加しているという。
保護者の間では、「無条件な統制より、秩序内で調整する制度が必要だ」「青少年を取り締まり対象ではなく教育の主体として育てるべきだ」との意見もある。
当局はキャッシュレス化で外貨依存を減らす方針だが、保守層がその流れすら問題視している構図が浮かび上がった。