北朝鮮の金正恩総書記は昨年1月、「人民の基礎的な物質文化生活を向上させる」として、今後10年間、毎年20の市・郡に地方工業工場を建設するよう指示した。国営メディアは昨年末から今年初めにかけて、各地で工場が完成したと報じたが、現場では多くの問題が発生している。
平安北道の情報筋によると、亀城郡では3階建ての建物4棟からなる工場が完成したものの、稼働に必要な原料が確保できていない。中央からの支援はなく、「原料は地方で自力調達せよ」との指示により、地元の女性同盟から主婦ら50人ずつが選抜され、農作業に従事させられている。
給与は支払われず、郡の党委員会は「女性たちは自発的に参加した」と宣伝するが、情報筋は「誰が家族と離れて無報酬労働に動員されることを歓迎するだろうか」と疑問を呈する。
休暇は月に2日のみで、自宅に戻っても夫が家事を放棄していたことで夫婦喧嘩が起き、場合によっては暴力沙汰に発展する。家庭不和が深刻化しているという。
一方、平安南道の別の情報筋によれば、北倉郡でも原料確保のため山を開墾し、大豆や麦、果樹などを育てている。
情報筋によれば、「この原材料基地の造成には、3月に郡党が組織した約200人の女性同盟突撃隊が動員され、30代~40代半ばまでの主婦たちが現地で寝泊まりしながら作業を行っている」という。
これは、動員された人々の家計にとって致命的なことだ。北朝鮮の成人男性は職場に出勤することが法的義務とされているが、もらえる給料は子どもの小遣いほどしかない。その代わりに市場で商売をし、家計を支えているのが主婦なのだ。
市場で家計を支えていた主婦たちが動員された結果、子どもの家出や作物の窃盗、夫の浮気やDVなど、家庭が崩壊寸前のケースもあるという。
「生活向上」の名のもとに進められる工場建設は、むしろ住民から生活手段を奪い、社会の基盤を揺るがす結果を招いている。