北朝鮮の金正恩総書記が推進する「地方発展20×10政策」は、毎年20の市・郡に工場や基礎インフラを新設し、平壌との格差が大きい地方経済を10年間で底上げするという野心的な取り組みだ。

中央集権的計画経済体制の再構築も視野に入れているとされるが、その実施は容易ではなく、すでに困難に直面している。

韓国のシンクタンク「サンド研究所」が運営するメディア「サンドタイムズ」が伝えた。

複数の対北朝鮮情報筋によると、地方の朝鮮労働党幹部たちは最近、中国・瀋陽や丹東を訪れ、外国のNGOや民間団体と接触。保健や障害者福祉など民生事業に必要な資材の支援を打診しているという。

4月に開催された「障害者体育大会」は、北朝鮮が長年軽視してきた社会福祉を再び取り上げた象徴的な出来事だった。これを機に、地方の党組織は外部からの支援チャネル確保に動き出している。

その背景には、金正恩氏からの厳しい成果要求があるとみられている。政策の一環として、農村振興、一次保健インフラ、障害者福祉施設などを重点整備するよう指示されており、各地の党委員会には年末までに具体的な成果を出すよう圧力がかかっている。

しかし、現場では資金・資材・人手の不足に直面しており、「成果を出せなければクビだ」と焦る地方幹部の声も漏れている。

外部との接触において最大の障害となっているのが、「韓国との接触禁止」原則である。

現地の情報筋は、「北朝鮮側は事前文書で『韓国国籍の個人、団体、資金は一切不可』と明記し、『南朝鮮』という表現も使わず、『大韓民国』という語のみ使用するよう求めてきた」と証言している。

また、別の国境地域の関係者も「韓国人や韓国系資金の関与は文書で完全に禁止されており、『南朝鮮』という言葉すらタブーとされている」と語る。

このため、北朝鮮側は中立国や第三国の団体に限定して支援を求めている。

ある対北朝鮮NGO関係者は、「北朝鮮が提示した事業は、保健所の設備、障害者の移動補助器具、乳幼児用栄養食など比較的非政治的な分野に集中している」としつつ、「それでも北朝鮮は“純粋な人道協力”の場においても韓国の影を消そうとしている」と語った。

その結果、現場では国連開発計画(UNDP)や世界保健機関(WHO)、国際赤十字など国際機関を通じた間接的なアプローチが検討されている。ただし、北朝鮮の対応は一貫性を欠いており、具体的な成果は出ていない。

一方、北朝鮮は民生支援を訴える一方で、国内統制の強化も並行して進めている。朝鮮労働党中央委員会は最近、「チャンマダン(民間市場)の縮小と、中央市場(国営商店)の集中的育成」を公式に打ち出した。だが、住民の多くが市場での商取引で生計を立てており、生活の圧迫は深まる一方だ。

両江道の情報筋は、「工事動員と市場の営業時間短縮が重なり、農繁期の人手不足と米価上昇が同時に発生している」と指摘し、「物資供給が追いつかなければ、年末には住民の不満が爆発しかねない」と警告している。

中央集権体制のもとで地方住民の生活水準を引き上げるのは、やはり至難の業だ。北朝鮮専門家たちは、「北朝鮮は今後、中露との外交関係強化に注力せざるを得ないが、地方の喫緊の課題は外部支援なしでは解決できない」と分析している。

別の情報筋も、「北朝鮮は極めて実用主義的な体制だ」とし、「韓国政府は短期的な成果に固執するのではなく、中立的チャネルを活用した多国間協力による“息の長い”関与を模索すべき時だ」と語った。

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