北朝鮮の首都・平壌と地方の格差は、中進国と後発途上国(世界最貧国)のレベルに相当するという話があるが、医療の面でも激しい格差があることが確認された。

北朝鮮のスマートフォンにインストールされるアプリを分析した結果、平壌と地方の医療施設の数に大きな差があることが確認された。

地方住民は、まともな医療サービスを受けるのが困難な実情に直面している。

デイリーNKは、北朝鮮のスマートフォンにインストールされるアプリ「健康」のベースになるデータファイル「healths.db」入手した。このファイルには、北朝鮮の105の市・郡に位置する計193か所(病院26か所、薬局119か所、製薬工場21か所、医学研究所13か所、療養所14か所)の医療関連施設の情報が掲載されている。

日本に置き換えると東京都千代田区に当たる平壌市中区域には病院1か所、薬局28か所、製薬工場6か所、医学研究所2か所と、計37か所の医療関連施設が存在し、最も密度が高かった。

これに次いで、いずれも平壌市内でも「上級国民」が住む平川区域(34か所)、大同江区域(32か所)、万景台区域(31か所)、普通江区域(29か所)の順で、医療施設の数が多かった。総人口の12%を占めるに過ぎない平壌市に、全国の半分近くの医療関連施設が集中している。

これとは対照的に、データベースで確認された地域のほぼ半数にあたる55の郡には、病院や薬局がまったく存在しないことが明らかになった。データベースには北朝鮮国内のすべての医療関連施設が網羅されているわけではなく、また情報も最新のものではなく、2023年時点での情報だが、それを考慮しても、データベースからは北朝鮮の医療インフラが平壌に集中していることがわかる。

注目すべき点は、療養所(サナトリウム、隔離施設)がこうした首都集中の傾向から外れている点だ。金正恩総書記への感染リスクを下げるための措置と見られ、コロナ療養施設もすべて平壌市の外に設置されていた。

また、平壌市の中区域、平川区域、大同江区域など8つの区域では、医薬品の研究施設と生産施設が同時に存在していることが分かり、注目に値する。特に万景台区域には、11か所のうち製薬工場が3か所、医学研究所が集中しており、北朝鮮の製薬産業の要衝だ。

これは、医薬品の研究と生産の効果を最大化するための一つの戦略と見られる。研究所で開発された新薬を近隣の製薬工場で生産することで、人材や物資の効率性を高め、開発から生産までの時間を短縮する効果を狙っていると考えられる。

一方で地方では、深刻な医薬品の不足が続いている。コロナ前は中国から多くの医薬品が密輸され市場で販売されていたが、国が密輸を管理するようになり、充分な量の医薬品が地方に届かなくなった。そのため、医者ですら医薬品を入手できず、民間療法に頼る現状が度々伝えられている。

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