金正恩総書記の指示で進められている「平壌市5万世帯住宅建設構想」の現場が、無法地帯と化している。平壌市全域で同時進行している大規模な住宅建設には、数万人規模の軍人や中央・地方の突撃隊が一斉に投入されており、これが混乱の要因となっている。
当局は人員の徹底調査を行った上で「信頼できる人物」を選んで送り込んだが、現場では窃盗、集団暴行、さらには性犯罪まで発生しているという。韓国のサンド研究所が運営する「サンドタイムズ」が報じた。
平壌市の情報筋によると、空腹と猛暑に苦しむ建設作業員たちが、割り当てられた資材をこっそり持ち出して市場の商人や住民と酒、タバコ、現金などに交換する行為が日常的に行われているという。各地の道から支給された米、食用油、セメント、鉄筋、木材、燃料(ガソリン・ディーゼル)などの物資が密かに横流しされているのだ。
現場の労働者は、建設資材や燃料が「公共のもの」という認識を持っておらず、好き勝手に売り払う。横流しは、既存の経済システムが崩壊した1980年代から広範に行われている、北朝鮮の病弊の一つだ。
市場の商人たちは横流しを歓迎している。労働者が持ち出す資材や食糧は相場より安いため、利ざやが大きく、「密かな共生関係」が形成されているとのことだ。
平壌の別の情報筋は、横流しによる資材不足、それによる手抜き工事が深刻であると指摘し、「指導部は毎日のように思想教育を行い、検査官まで送り込んで取り締まろうとしているが、現場監督でさえワイロを受け取って見逃すことが日常茶飯事だ」と語った。
さらには、一部の突撃隊員が民家や公共施設のドアを壊して侵入し、物品を盗んだり、女性に対する性犯罪を犯すケースもあるという。
軍人や突撃隊員が「飯をくれ」と言って民家を訪れる行為も頻発している。平壌市民の中には「抵抗すれば何をされるかわからない」として、米や現金を差し出す者もいるという。
平壌・黎明通りの建設に参加した脱北軍人のイ・ナムス(仮名)氏は、「突撃戦を強調され、朝5時に起床して1日16時間以上も寝られずに殺人的な労働を強いられた」とし、「食事の量も質も非常に乏しく、常に腹を空かせていた」と証言した。
集団生活の中で飲酒が原因となり、突撃隊員同士や地域同士で口論から殴り合い、さらには“犬の喧嘩”のような騒ぎが頻繁に起きており、ある現場では集団性暴力まで発生して、安全員(警察官)が緊急出動する事態になっているという。
平壌の情報筋は、「北朝鮮当局は出自や身辺まで徹底的に調査し、『模範的な人物』だけを平壌に送ったが、空腹には勝てない」と語り、「平壌の住宅建設を金正恩の人民愛だと宣伝しているが、現場ではまるで西部劇さながらの泥沼が繰り広げられている」と述べた。