北朝鮮の首都・平壌から東に約100キロに位置する陽徳温泉リゾートは、金正恩総書記が力を注ぐ外貨獲得を目的とした観光産業地区の一つだ。大小の温泉施設、乗馬場、ゴルフ場などが近代的に整備されている。

しかし、コロナ禍の影響で開業からわずか2か月後に営業を中断。その後、外国人観光客の受け入れを視野に、2年前には「49号病院」と呼ばれる精神疾患患者の収容施設が撤去されていたことが、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によって報じられた。

平安南道の情報筋によれば、かつてこの地域には陽徳49号病院が存在し、道内各市・郡の病院で「49号患者」と診断された人々を隔離・治療する場所として、数十年にわたって運営されていた。しかし2023年に閉鎖されたという。

北朝鮮では「49号」とは精神疾患を分類する疾病コードであり、精神疾患の患者を収容する施設は「49号病院」と呼ばれ、各道に設置されている。

情報筋は「平安南道の49号病院は、最高尊厳(金正恩氏)の関心が高い陽徳温泉地区の近くにあった」と説明し、「外国人観光が再開されれば、精神病患者の存在が目につくため、撤去されたのだろう」と語った。

病院に収容されていた患者たちは、2年前に、それぞれの出身地である市や郡が設置した仮設の病棟に移送されたという。

一方、咸鏡南道の別の情報筋は、最近、陽徳を訪れた際、49号病院の跡地に保養所が建てられ、実際に運営されているのを確認したと明かした。昨年建設された「温井保養所」は今年3月から稼働を開始しており、工場や企業所で功績を認められた労働者たちが温泉療法やリハビリ治療を受ける施設だという。

この情報筋は「当局が49号病院を撤去し、『人民の健康増進に寄与する』との名目で保養所を新設したのは、陽徳温泉地区への外国人観光客誘致のための準備の一環だ」と述べた。

そして、当時の49号病院での劣悪な実態についても語っている。

「49号患者たちは、病院で一日三食すらまともに提供されず、窓を壊して塀を越え、民家の畑から野菜や作物を盗んで食べたり、路上で大声で笑ったり、国家を罵倒するような暴言を吐いたりすることもあった」

陽徳温泉での外国人観光が始まる前に、当局はそうした49号患者の存在を「排除」しようとしたということのようだ。

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