言論の自由が存在しない北朝鮮にとって、海外からの電波は、世界の動きだけでなく、自国で何が起きているのかを知るための重要な手段だ。しかし、米国や韓国の北朝鮮向けラジオ放送が、相次いで停止されている。

今年3月、トランプ大統領は米グローバルメディア局(USAGM)の事実上の廃止を命じる大統領令に署名した。これにより、国営のボイス・オブ・アメリカ(VOA)の放送は全面的に中止された。北朝鮮を含むアジアの全体主義国家向けに放送していたラジオ・フリー・アジア(RFA)は、放送を維持しつつ段階的に縮小してきたが、7月3日をもって放送を終了した。

これは米国に限った話ではない。

韓国の情報機関「国家情報院」は、6月25日に就任した李鍾奭(イ・ジョンソク)院長の指示に基づき検討を進め、今月5日から15日にかけて、北朝鮮向けのラジオ5波とテレビ1波の放送を順次停止したと聯合ニュースが報じた。停止されたのは、「人民の声」「希望のこだま」「自由FM」「Kニュース」「自由コリア放送」などだ。

これに対して、かつて北朝鮮・黄海道で保衛員(秘密警察)として勤務し、脱北して現在は韓国に住むイ・チョルン氏は、朝鮮日報のインタビューに応じて、放送中止を「本当に情けない」と批判した。

イ氏は、韓国の映像コンテンツの取り締まり任務に就いていたとき、朴槿恵元大統領が2016年8月15日に行った演説を放送する国家情報院のテレビ放送を見て、脱北を決意したという。

「北朝鮮であの放送を見ていた人は非常に多かった」

黄海道は韓国と接しており、ラジオはもちろん、テレビの電波も問題なく届く地域だ。イ氏自身も、子どもの頃から韓国のテレビを見て育ったという。保衛員になった後は、韓国のテレビ番組を受信・コピーし、それを販売していた。こうして流通した韓流コンテンツは、中国経由で入ってくるものよりもはるかに多かったと証言している。

国家情報院による今回の放送停止について、イ氏はこう述べた。

「最も大きな役割を果たしていた国家情報院が抜けてしまったので、北朝鮮は金正恩の独裁体制に囲われた“島”のようになってしまった」

現在、韓国で北朝鮮向け放送を継続しているのは、KBS(韓国放送公社)の「韓民族放送」と、民間団体が運営する「国民統一放送」「北韓改革放送」「自由北韓放送」、そして4つの宗教系放送だ。これらのほか、米国からの宗教放送や、日本から放送されている「しおかぜ」などもある。

しかし、米国の北朝鮮専門ニュースサイト「38ノース」によれば、北朝鮮向けの放送を行っていた局は11から5に減少し、1日あたりの放送時間も415時間から89時間へと激減したという。

KBS韓民族放送は1日54時間の放送を維持しているが、これが停止されれば、北朝鮮向けラジオ放送はまさに風前の灯火となる。

こうした空白を埋めるのは、おそらく中国だ。

編集部おすすめ