朝鮮人民軍(北朝鮮軍)では、上官が部下に現金や食糧を調達させる“課題”を課すことがしばしばある。実質的には、犯罪を助長するような命令だ。

こうした中、家畜を盗もうとした兵士たちが別の部隊と衝突し、死傷者が出る事件が発生した。両江道のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

事件を起こしたのは、両江道甲山郡に駐屯する朝鮮人民軍第10軍団傘下の第43旅団に所属する下級兵士2人。彼らは先月25日、上官から下された“課題”を遂行するために外出した。

その5日前には、「1週間以内に1000元(約2万650円)を調達せよ」との具体的な指示を受けていた。これに応じ、最も手っ取り早い家畜の窃盗に乗り出した。標的としたのは、家畜を飼育する家庭が多いことで知られる恵山市の春洞地区だった。

彼らは現地の民家を見て回り、ある家で豚を捕まえて運び出そうとした。しかしその行動は、春洞に駐屯していた別の部隊の兵士に発見されてしまう。

春洞を「自分たちの縄張り」と認識していたその兵士たちは、「盗んだ豚を置いて行け」と怒鳴りつけた。これに対し、第43旅団の兵士たちは応じず、口論はやがて乱闘へと発展した。

一方は豚をなんとしても持ち帰ろうとし、もう一方はそれを阻止しようとした。

やがて双方は石を投げ合う事態となり、その過程で第43旅団の兵士1人が頭部に石を受けてその場で倒れ、意識を失ったまま死亡した。

この事件は第10軍団の指揮部に報告され、軍団保衛部(秘密警察)などで構成された監査班が第43旅団に派遣された。現在、監査班は該当兵士の外出経緯や行動に関する調査を進めていると情報筋は伝えた。

一方、事件が住民の間で噂として広がるにつれ、“課題”を与えた上官への批判が高まっているという。

情報筋は、「住民たちは、兵士が金を工面せよという圧力に追い詰められた末に豚を盗み、最後まで奪われまいと争った結果、命を落とすことになった。課題を与えた軍官(将校)こそ、この死亡事件の責任者だと指摘している」と語った。

さらに、「今回の事件で誰がどのような処罰を受けるかは今後を見守る必要がある」と述べた上で、次のように続けた。

「住民たちは、『どうか軍に入隊した若者たちに、金や食糧を調達するような課題を与えないでほしい。軍に青春を捧げるだけでも十分につらいのに、命まで奪われるとは、あまりにも痛ましい』と嘆いている」

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