韓国政府が2018年から毎年発行してきた「北朝鮮人権報告書」について、今年は発行しない方向で検討していることが明らかになった。表向きは証言収集の困難さを理由としているが、実際には北朝鮮の反発を避けるため、李在明政権が意図的に「忖度」しているとの見方が広がっている。
中央日報(8月13日付)によれば、統一省関係者は12日、記者団に対し「2024年版発行後、新たに収集された証言が少ない」と説明。年間約200人が入国する脱北者の多くが中国など第3国に長期間滞在しており、最新の北朝鮮事情に関する新証言は乏しいと述べた。しかし、専門家の間では「南北関係に悪影響を与えたくない政権の政治判断」との分析が支配的だ。
実際、鄭東泳(チョン・ドンヨン)統一相は先月の国会人事聴聞会で「北朝鮮人権を北体制への攻撃手段として使うのは適切ではない」と発言し、南北基本合意書第2条の「内部問題への不干渉」原則を強調した。これは北朝鮮が最も神経をとがらせる人権問題に触れないという、事実上の自己検閲ともいえる姿勢だ。
「北朝鮮人権報告書」は、北朝鮮人権法に基づき統一部傘下の北朝鮮人権記録センターが脱北者証言をもとに作成するもので、北内部の人権侵害を記録する唯一の公的文書だ。毎年の発行は国際社会への透明性確保にも資するが、今回の発行見送りは「人権問題を政権が封印する前例」になりかねない。
一方、軍事面でも政権の北朝鮮配慮ぶりがうかがえる。韓国軍は9日、「北朝鮮が前線の一部地域で対南拡声器の撤去を開始」と発表したが、実際に撤去されたのは2台だけで、そのうち1台は同日中に再設置された。軍は「通常の整備」と説明するが、最終的に撤去されたのは1台のみ。2018年に北が40か所以上の拡声器を撤去した事例と比べれば、今回の措置は象徴的にも実質的にも極めて限定的だ。
韓国側は5日に先行措置として20台超の固定式拡声器をすべて撤去したばかりだが、北側からの「対等な対応」は確認できない。
李在明政権のこうした姿勢は、北朝鮮に不都合な事実をあえて公表せず、軍事的にも一方的に譲歩する形となっている。人権と安全保障という国益の根幹に関わる問題で、政権が北朝鮮への配慮を最優先していることは否めない状況だ。