韓国在住の脱北者たちが、北朝鮮当局による新たな工作の標的になっている。韓国のシンクタンク「サンド研究所」傘下のメディア「サンドタイムズ」によれば、北朝鮮の秘密警察・保衛部は、脱北者の家族を人質にとった脅迫や懐柔を活発化させているという。
脱北ユーチューバーのAさんは、10年ぶりに北朝鮮の父親から国際電話を受けた。会話の途中、ある脱北者団体のことを尋ねられ、不審に思って「今、隣に誰かいるのか」と聞くと、父親は否定しながらも動揺した。通話場所が国境地帯の保衛部監視下であると察したのだ。父親は「共和国に戻れば許される」などと再入北を促す発言を繰り返したため、Aさんは連絡を絶った。
こうした事例は他にもある。30代の脱北者は、家族を人質に取られた末、韓国内の脱北者情報を北へ渡し、懲役3年6カ月の刑を受けた。2007年に脱北したBさんも、兄に呼び出され、2018年に中国経由で北朝鮮国境地帯へ向かった。軍や脱北ブローカーに関する情報提供を求められ、複数回にわたり情報を渡していたことが判明している。
保衛部は送金詐取にも絡んでいる。「病人が出た」「冠婚葬祭があった」などの嘘で送金を誘い、その過程で情報も引き出す。送金を届けに行ったブローカーが保衛部に捕まりかけた例もある。
ロシアでは、保衛部が脱北しようとした北朝鮮軍兵士を拉致するという事件が起きている。
さらに北朝鮮は、脱北者を帰国させ宣伝に利用する戦略も展開している。2017年には、韓国のテレビ出演経験を持つイム・ジヒョン氏が再入北し、北朝鮮メディアで韓国を非難して物議を醸した。
元安保当局者は「保衛部による脱北者工作は個人の問題ではなく国家安全保障に関わる」と警告。脱北者への情報保護と心理的支援の強化を訴えている。