核兵器開発を続け、東アジア最大の不安定要因となっている北朝鮮の金正恩総書記が、いまや「世界平和と正義の守護者」を自称するまでに増長している。朝鮮中央通信によれば、金正恩氏は14日、平壌の改善門広場で行われた「祖国解放80周年記念大会」で演説し、北朝鮮の歴史を「尊厳と栄誉の絶頂」と称えたうえで、ロシアと共に「歴史の正しい側に立っている」と強調した。

金正恩氏が解放記念日に公開演説を行うのは初めてで、会場には訪朝中のロシア下院議長ヴャチェスラフ・ボロージン氏らも出席。プーチン大統領の祝電が読み上げられ、式典の最後はロシア国歌で締めくくられた。金正恩氏は「朝鮮とロシアは世界の平和と安定を守る闘争の同じ塹壕に立ってきた」と述べ、両国の結束を誇示した。

演説で金正恩氏は、北朝鮮経済や軍事力を「政治も経済も国防も自主的に建設してきた栄光の富国強兵」と自賛。さらに「帝国主義者の新植民地主義政策」や「先進国と後進国の差を固定化しようとする支配勢力」に抗して勝利したと主張した。こうした論調は、長年の核兵器開発や弾道ミサイル発射で国際協調を乱し、国連制裁を受けてきた現実を完全に無視した自己正当化だ。

金正恩氏はまた、「主権国家の権益を侵害する帝国主義の横暴が深刻化している」と非難し、ロシアとの関係を「新ナチズムの復活を阻止し、国際正義を守る共同闘争」と位置づけた。米国や韓国への直接言及は避けたが、「世界の右傾化と一極化を粉砕するには進歩陣営の強力な連帯が必要」と語り、国外のシンパ勢力への呼びかけとも受け取れる発言を行った。

問題は、このような発言を平然と行える環境を、結果的にとはいえ、日米韓自身が作り出してしまった点にある。核実験や弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮に対し、国際社会は制裁と非難を重ねてきたものの、実際には核戦力の高度化を阻止できず、逆に金正恩氏に「正義の闘士」を演じる舞台を与えてしまっている。

イスラエルがイラクやシリア、イランの核開発に対して取ってきた軍事攻撃、要人暗殺といった手段の「是非」はさておくとして、相手の意図を破たんさせるためにはそれほど具体的な行動が必要だというのが歴史の教訓なのかもしれない。

今後さらにロシアとの軍事協力が進めば、北朝鮮の核・ミサイル能力はさらに強化される恐れが高い。

特に韓国では、李在明政権が北朝鮮との対話ムードを優先し、人権問題や軍事的挑発への厳しい対応を控える傾向が見られる。米国もウクライナ戦争や中東情勢に注力する中で、朝鮮半島問題は後景に退きつつある。日本も拉致問題解決を掲げながら、実効的な圧力策を欠いているのが現状だ。

このまま現行の戦略を続ければ、金正恩氏はますます自信を深め、「核保有国としての正統性」を国際舞台で主張するだろう。北朝鮮の自己宣伝を封じ、核開発を実質的に抑止するには、日米韓が足並みをそろえた厳格かつ持続的な圧力が不可欠だ。

その具体的な方法が、見つかっていないのは現状ではある。それでもいま必要なのは、「放置のツケ」を直視し、金正恩体制に誤ったメッセージを送らない戦略の再構築ではないだろうか。

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