北朝鮮・平安北道(ピョンアンプクド)球場(クジャン)郡で、「呪いが下った」という奇妙な噂が広まっている。デイリーNK内部情報筋が伝えた。

球場郡では豪雨による深刻な被害が続いている。16日から19日にかけての豪雨では河川が氾濫し、家屋や家財、家畜まで流される被害が相次いだ。

先月の豪雨でも橋梁の崩壊や発電所設備の流失、20人以上の死傷・行方不明者を出していたが、その直後に再び同様の惨事が繰り返され、住民の失望は深まっている。当時は地域幹部による虚偽報告が摘発され処罰も行われたが、住民からは「もう処罰すべき幹部も残っていないのでは」と皮肉交じりの声すら上がっている。

こうした状況の中で急速に広まったのが「呪い」である。

昨年7月に起きた豪雨では、金日成・金正日の肖像画数千枚が廃棄されるという事態が起きたが、さすがに最高指導者にまつわる「呪いのウワサ」ではない。

球場郡で広がっているのは「大蛇の呪い」である。

噂の発端は、球場郡沙吾里の住民が重さ20キロを超える大蛇を捕まえたという話だった。古来より北朝鮮の農村部では蛇に手を出すと天の怒りを招くと信じられており、この不吉な逸話が災害と結び付けられたのである。

確かに、蛇を神聖視する民間信仰は世界各地に見られる。しかし実際の被害原因は、ずさんな河川管理や森林の荒廃、治水体制の欠陥といった現実的要素にある。にもかかわらず、住民が怪談に依拠するのは、国家の失策を正面から批判できない社会的環境ゆえである。

消息筋は、国家のインフラ未整備に原因を求めるより「『大蛇の呪い』という迷信的解釈のほうが住民には説得力を持って受け入れられている」と語る。

また、「大蛇の話は単なる迷信ではなく、災害を政治問題にせず説明する方便のようなものだ」と述べる。さらに「住民の不満が体制に直接向かわないよう、当局がこうした噂を黙認し、場合によっては助長している可能性すらある」と指摘した。

今回の噂は、金正恩体制に対する不満のはけ口すらない閉鎖社会で生まれた「呪いのウワサ」というわけだ。

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