北朝鮮で食糧価格が急騰し、一般住民の間で深刻な飢餓と栄養失調が広がっている。特に農村部や経済的に脆弱な層を中心に餓死の危機が現実味を帯びつつあると、デイリーNKの複数の現地情報筋が証言している。

平安南道平城市では先月、10代の学生が国営の穀物販売所から穀物を盗もうとして逮捕された。現地に居合わせた人々によれば、その少年は「顔が栄養失調でパンパンに腫れ上がっていた」という。事件後、近隣住民や地域幹部が少量のトウモロコシや豆を家に届けるなど支援したが、「どれだけ持ちこたえられるか分からない」とため息をつく声が多いという。

平安南道の別の住民は、「最近の市場の価格上昇は普通の家庭では到底耐えられない。子どもが満足に食べられず、動員作業に出された子が途中で倒れることもある」と語った。栄養不足の子どもたちは午後の作業から外され、学校内で軽作業を任されるケースが増えているという。

一方、江原道元山市では「農村の子どもたちが餓死寸前だ」という噂が広がっている。現地では一部の地域組織が「弁当分かち合い運動」を展開しているが、参加する女性同盟のメンバー自身が「私たちも飢えている」と漏らす状況だ。江原道の住民は「農村では食べさせるものがジャガイモ数個しかなく、子どもを学校に通わせられない親が多い。教師が各家庭を訪ねて『新学期は必ず登校させてほしい』と懇願するが、現実は厳しい」と打ち明けた。

農村では配給として受け取ったのが実際の穀物ではなく、価値の低下した北朝鮮通貨だったため、食糧不足に陥った農場員も少なくない。住民の間では「国は毎年『秋の収穫まで持ちこたえろ』と言うが、誰も信じていない」との不信感が渦巻いている。

当局は価格上限の設定や市場での販売量制限、軍糧米の一部放出などを打ち出しているが、軍需工場や軍幹部の家族に優先的に回され、庶民が実感できる効果はほとんどない。金正恩総書記は実質的に、国民の飢餓を傍観しているも同然だ。むしろ市場の取り締まり強化により闇取引が横行し、結果として価格がさらに高騰する悪循環が生じている。

韓国デイリーNK が実施した市場調査によると、8月17日現在、平壌・新義州・恵山の各市場でコメ1キロの価格は2万3千~2万4千北朝鮮ウォンに達し、わずか2週間で50%以上の急騰を記録した。調査開始以来、これほど急激な上昇は初めてだ。

江原道の情報筋は「党のスローガンは結局プロパガンダにすぎず、住民の生活改善とはかけ離れている」と冷ややかに語った。住民たちの証言は、北朝鮮社会が深刻な飢餓の現実に直面していることを浮き彫りにしている。

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