北朝鮮当局がロシア派兵で戦死した兵士たちを「英雄」として讃える映像作品を制作し、全国の青年層に視聴を義務付けたことが分かった。当局は犠牲を「不滅の武勲」と宣伝することで忠誠心を鼓舞しようとしたが、現場の青年たちの反応は冷ややかで、むしろ体制の矛盾や階級的不平等への批判が噴き出しているという。
デイリーNK内部情報筋が伝えたところによれば、今月初め、両江道恵山市党委員会は各機関・企業所の青年同盟組織に対し「海外軍事作戦で英雄的武勲を立てた烈士たちを紹介する映像を必ず視聴せよ」との指示を下した。その後の集中学習時間において、〈祖国は記憶せん、勇士たちの武勲を〉というタイトルの映像が再生された。映像にはロシアの戦場での戦闘シーンや戦死者の名前・年齢が並び、「命を捨てても名誉を守れ」というメッセージが強調されていたという。
一部の青年は涙を見せたものの、全体としては冷淡な反応が優勢だったという。参加者の間では「入隊前から白飯を満足に食べられず、軍務中もトウモロコシ飯と塩汁ばかりで、結局は異国の戦場に送られて命を落とした。あまりに哀れだ」「若くして幸福を知らぬまま死んだのは気の毒すぎる」といった声が相次いだ。
特に青年層の不満は「階級的不平等」に集中した。ある青年は「毛沢東でさえ息子を朝鮮戦争に送ったのに、なぜ我が国では幹部の子弟が安全な職ばかり占めるのか。我々だけが危険な前線に追いやられるのは不公平だ」と直言したという。実際、幹部や富裕層の子どもは文書課、軍楽隊、宣伝隊、輸送部隊といった比較的安全で楽な部署に配置される一方、庶民出身の青年が前線部隊に送られ、命を落とす例が続いている。
情報筋は「中隊長や小隊長も多くが後ろ盾のない家庭の出身であり、党や保衛部の背景がなければ権限も少なく、生活状況も庶民と変わらない」と指摘。こうした現実が青年の間に軍入隊忌避の風潮を生み出しているという。
北朝鮮当局は戦死者を「英雄的犠牲」として宣伝することで体制への忠誠を強めようとしているが、結果的には社会に根深い不平等を浮き彫りにし、体制への失望を広げる逆効果を招いている。実際、先月末に平壌の牡丹館で行われた戦死者遺族慰労行事を見た住民の間でも「子を軍に送り出すのは避けたい」という空気が強まり、秋の徴兵対象者名簿から子の名前を削除しようとする親が現れていると報じられた。
忠誠心の鼓舞を狙った「英雄宣伝」は、青年層の心をつかむどころか、むしろ階級差別と体制の矛盾を再確認させる結果となっており、当局の宣伝戦略の限界を浮き彫りにしている。