北朝鮮で“最高尊厳”とされる金日成・金正日父子の肖像画バッジが、ロシア派遣の建設部隊軍人によって酒やタバコと引き換えにされるという、金正恩総書記からすれば実に“反革命的で不敬”な事件が明らかになった。前線では兵士が肖像画に忠誠を誓い命を投げ出すと宣伝されているが、その裏で後方部隊の兵士は「二束三文」で体制の象徴を取引していたのである。韓国のシンクタンク「サンド研究所」傘下のメディア「サンドタイムズ」が事件の詳細を伝えた。
北朝鮮で最高指導者が描かれた偶像物は命をかけて守らなければならないとされる一方、災害避難時にゴミ処分されるという、かつては考えられなかった事例も起きている。
事件は今月初旬、ウラジオストク近郊の建設現場で発生した。第7総局所属の22歳の軍人2人が、ロシアの骨董収集家に肖像画を渡し、その見返りにタバコ2箱とウォッカ1本を受け取った。彼らは生活費に困り、好奇心と誘惑から軽い気持ちで行ったが、この行為が部隊の上層部に報告され、瞬く間に大問題へと発展した。
軍人たちは部隊で暴行と厳しい取り調べを受け、その後在ロシア北朝鮮大使館に呼び出された。大使館は「反体制の意図はなかった」と判断し、反省文と短期の処分にとどめた。しかし、この情報が国家保衛省に報告されると事態は急変。「事件化」指示が下され、現地派遣軍人全体に対する徹底調査が開始された。
消息筋によると、以前から一部兵士が肖像画や北朝鮮通貨を密かに現地業者に渡していた事実があり、当局はこれを機に全員の所持品検査に乗り出したという。ロッカーや荷物を一つ一つ調べ、派遣時の物品リストと照合する徹底ぶりだ。
北朝鮮当局が事件を単なる「ハプニング」で済ませなかった理由は明白だ。ウクライナ前線では兵士が肖像画に殉じて命を絶つ姿を宣伝している最中に、後方兵士がその肖像画を酒やタバコと引き換えにした事実が明るみに出たからである。体制の精神的基盤が揺らいでいる現実を如実に示す出来事となった。
こうした背景から当局は事件を「思想的逸脱」と位置づけ、厳罰に値する問題として処理している。現場の兵士たちは強い緊張感に包まれており、過去に同様の行為をした者は「いつ摘発されるか分からない」と戦々恐々としている。
一方で、実際には大多数の派遣軍人が生活苦の中で同様の取引を行ってきたとされ、一部の兵士からは「皆やっているのに全員を処罰できるはずがない」という反発の声も漏れている。
専門家は「北朝鮮は前線兵士の忠誠心を誇張して宣伝してきたが、海外派遣軍人の思想的弛緩が露呈したことで大きな衝撃を受けた」と指摘。今回の事件を見せしめに、海外労働者全般の規律引き締めに乗り出すだろうと分析している。