北朝鮮がロシア・ウクライナ戦争に派兵した兵士の戦死者遺族が、表彰式直後に当局への不満を口にした後、跡形もなく姿を消したことが明らかになった。

戦死者はすでに約2000人に達するとされるが、当局は一方で「共和国英雄」の称号を授与しながら、遺族の不満は徹底的に封じ込めている。

両江道消息筋によれば、普天郡に暮らす50代の父親とその家族が9月14日午後、長男の表彰式を終えて帰宅した後、突然消息を絶った。家の中には生活用品がそのまま残されており、人民班長が発見して保衛部に報告したという。

父親の長男は北朝鮮軍「暴風軍団」所属でウクライナ前線に派遣され戦死。第2次表彰式で「共和国英雄」の称号を授与された人物だった。

事件の発端は、追悼行事の記録映画を観賞していた場面だ。父親は「息子を承諾もなく連れ去り、他国の戦争で死なせた。代わりに平壌の家を与える?これが待遇か」と激昂したという。

彼はもともと平壌出身だが父の代に追放され、普天郡に下放されていた。息子の戦死によって平壌移住が予定されたが「恨みの地・平壌に息子の命と引き換えには行けない」と公然と拒否したと伝えられる。

その後も怒りを抑えきれず、薪を割りながら一日中叫び声をあげる姿が目撃され、住民に瞬く間に広まった。これが党と国家を誹謗する行為と解釈され、保衛部が深夜に家へ突入。家族全員を着の身着のまま連行し、家財は住民に片付けさせた。住民が「英雄の家族だから良い所に行ったのでは」と口にすると、保衛員は「良い悪いを問わず口を閉じよ」と冷酷に警告したという。

翌日、里党幹部らは住民を集め、「最も胸を痛めているのは金正恩元帥だ」と強圧的に思想教育を実施。さらに「父親が党と国家を激しく中傷したため強制措置に至った。息子が英雄でも父の罪は免れない」と強調した。

この一件を受け、地域社会は恐怖に包まれている。消息筋は「英雄の家族ですら一夜にして消されるのだから、誰が不満を口にできるだろうか。今や『息子が英雄でも口を慎まねばならない』という空気が広がっている」と語った。

北朝鮮当局が「英雄」称号を与えながらも、遺族の言動を厳しく取り締まる現実は、国家の統制体制がいかに強固で、同時に脆弱な恐怖に依拠しているかを如実に示している。

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