北朝鮮・咸鏡南道の咸興薬科大学が、学生の恋愛について「熟練し健全に行うべき」との指示を出したことが分かった。恋愛そのものを全面的に禁止するわけではないが、学内での公然たる交際を避けるよう求めており、事実上の統制措置とみられる。

北朝鮮では2000年代以降、「韓流」が社会全体を席巻し、若者の恋愛観にも大きな影響を及ぼした。一方、韓国を敵視し南北統一を否定する金正恩総書記は韓流を強く嫌悪。男女間の親愛を示す韓国風の表現がスマートフォンに表示されないよう、変換禁止プログラムで規制するなど徹底した統制を行ってきた。今回の恋愛規制も、韓流的な恋愛観に染まった若者への警告の意味合いがあるとみられる。


デイリーNK内部情報筋によると、同大学の党委員会は今月20日、全教職員総会を開き「学風を損なう不健全行為を根絶せよ」と強調。恋愛問題が発覚した場合は、当事者のみならず学部長や学科長、担任教員にも責任を問うと通達した。

咸興薬大は全国から優秀な学生が集まる中央級大学で、金正恩氏の実母・高容姫氏の妹である高英淑(コ・ヨンスク)氏が通っていた大学として知られる。学生の多くが寄宿舎や下宿で生活しており、男女は別棟だが交流の機会は多く、夜間も会いやすい環境にある。下宿生の中には生活費を節約するため、恋人同士で密かに同居するケースもあるという。

また、大学側が施設整備や実習資材の購入を学生に負担させることも多く、恋人同士で協力して費用をまかなう例も少なくない。このため学内では「恋愛は選択ではなく必須」との声すら上がっていた。こうした状況の広がりに、大学当局が抑制に動いた格好だ。

大学内の青年同盟は「学内恋愛は学風を乱す」と断じつつも、「完全に禁じるのではなく、非公開で慎重に行え」と指導。過去には恋愛が発覚すると即退学処分となったが、現在は処分が教職員にまで及ぶため退学は避けられ、事実上「隠れて交際せよ」という形に転じている。

一方、学生たちの反応は冷ややかだ。「『熟練し健全な恋愛』の基準が示されていない」「隠れて付き合うことが健全とされるのは矛盾している」との批判が相次いでいる。北朝鮮当局は思想統制や生活規律の名目で、大学生の私生活にまで介入してきた。今回の措置もその一環とみられるが、若者の間で理解を得られていないのが実情である。

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