北朝鮮の金正恩総書記は9月23日、竣工を控えた平壌総合病院を視察。建設が大幅に遅れたのは幹部らの「功名心によって生じた経済組織活動における混乱に起因する」として、厳しく叱責した。
この病院建設を巡っては、無理なスケジュールで工事が進められた結果、現場で多数の死亡事故が起きたとされている。さらには計画上の失敗の責任を取られた幹部が処刑されており、まさに「血塗られた病院」として誕生したと言える。
朝鮮中央通信によると、金正恩総氏は視察現場で、「病院の建設が他の部門に比べて遅れた原因は世界的な保健事態による客観的要因にもある」としながらも、幹部らの未熟さがより大きな要因だったと指摘。
「当時、彼らは国家の財政規律を無視して病院の規模と設計の変更に応じた総建設予算も承認されなかった状態で、自分勝手に工事を進めて経済的損失を招いただけでなく、より重大なことには恣意的に支援分科形式の機構まで設けて全国的に募金と支援の旋風を巻き起こし、真に人民のために始めた張り合いがある誇らしい党の宿願事業の本道が歪曲されるようにする深刻な政治的問題を発生させた」と述べた。
これは同通信の公式訳なのだが、ちょっと何を言っているかわかりにくい。要するに、国からの予算措置が固まる前に建設工事を開始し、足りなくなった予算を国民からの寄付で埋めようとした、ということのようだ。
しかしそもそも、同病院を「早く作れ」とハッパをかけたのは金正恩氏本人だ。同氏は、2020年3月に行われた同病院の着工式で、同年10月までに完成させるよう指示したのである。ただでさえ医療インフラの貧弱な北朝鮮で、300床規模と見られる本格的な総合病院を、たった半年で完成させろというのがどだい無茶な話だったのだ。
実際、「速度戦」と呼ばれる無理な工事の結果、北朝鮮では建物が崩壊するなどの事故が頻発している。
そこに新型コロナウイルスの感染拡大と、国境封鎖による資材不足も重なり、建設は大幅に遅れるしかなかった。
それに加え、この病院に中国製の医療機器を導入しようとした幹部が、「ヨーロッパ製を揃えろ」という金正恩氏の指示に背いたとして処刑されたと、デイリーNKの内部情報筋は伝えている。
金正恩氏は、この病院の完成を、10月10日の朝鮮労働党創建80周年を飾るひとつの目玉にしたい考えのようだ。しかし、その陰で少なくない人命が失われたことを知る人々は、素直に祝う気持ちにはなれないだろう。