北朝鮮当局が今月10日に迎える朝鮮労働党創建80周年を前に、全国の青年同盟員を対象とした「歌集検閲」を実施していることが分かった。青年たちが宣伝歌や詩を記した「歌集」をきちんと携帯しているか、そして内容が十分に記されているかを確認するという。
金正恩氏はK-POPをはじめとする海外文化を排除し、北朝鮮の創作物だけで社会統制しようとしている。
咸鏡南道のデイリーNK消息筋によれば、青年同盟中央委員会は9月27日、全国の各道組織に対し検閲実施を命令。対象は機関・企業所・学校に所属する全ての青年同盟員で、10月10日まで続けられる予定だ。
「歌集」とは、党を称える宣伝歌や愛国詩を手書きで書き留めたノートのこと。青年同盟はこれを「常時携帯せよ」と指導してきたが、実際に携帯状況まで調べる検閲は異例である。今回の検閲では「党に従って行こう」「朝鮮の力」「祖国賛歌」など、少なくとも20編以上の歌や詩が書かれているかどうかが重点的に点検されているという。
咸興市の城川江区域にある高級中学校では、検閲通知を受けて生徒全員に「古い歌集を新しく作り直せ」との指示が下された。歌集が古びていたり文字が乱れていた場合、それだけで「思想態度に問題あり」と見なされ、個人だけでなく所属組織にも処罰が及ぶため、教師や生徒が一斉に書き直し作業に追われている。
学生たちは不満を隠さない。「大学進学や就職の準備で忙しいのに、宣伝歌を一から書き直せと言われても意味がない」との声が上がる。青年同盟指導員や担任教師がどれだけ強調しても、生徒たちの多くは聞き流し、検閲が近づくと慌てて体裁を整えるのが実情だ。
消息筋によると、検閲が厳しく行われる一方で、現場では裏取引も横行しているという。「検閲で不備が見つかると、担任教師が検閲員に昼食をご馳走して“見逃し”を頼むことが多い。学生も教師も、検閲のときだけ一時的に緊張するが、終われば元に戻る」とのことだ。
党創建80周年という節目を迎え、体制の忠誠心を示すはずの「歌集」検閲。しかし実態は、形ばかりの儀礼に疲弊する青年と教師の姿を浮き彫りにしている。若者たちの間では「こんな意味のない検閲をなぜやるのか分からない」と嘆く声が広がっている。