中国の李強首相が、朝鮮労働党創立80周年を祝うため平壌を訪問した。9月に金正恩総書記が訪中してから、わずか1カ月の間に首脳級の往来が2度あったことになる。

李首相の訪問を契機に、長らく停滞していた経済・物流協力が急速に動き出した。韓国デイリーNKの取材によれば、開通が10年以上遅れていた新鴨緑江大橋の北側税関・出入国施設が完成間近であり、通関手続きの簡素化に向けた協議も進む。これは事実上、コロナ・パンデミックを機に生じた中朝間の“物理的封鎖線”が解かれる初の兆候といえる。

両国はまた、遼寧省瀋陽で「新義州–丹東経済特区」設立も協議中で、中国が資本とインフラを、北朝鮮が土地と労働力を提供する“制裁下の合合法的協力モデル”を模索していると、デイリーNKは伝えている。

金正恩氏の訪中以後、中国からの投資期待が反映され、北朝鮮市場では人民元の為替レートが急落した。北朝鮮の貿易機関には中国地方政府や企業から合弁提案書が届き、平壌や新義州では「中国資本が戻る」との期待感が高まっているという。

さらに北朝鮮の海外労働者派遣も再拡大の兆しを見せる。遼寧省丹東などの水産加工場には新たな北朝鮮労働者が投入され、今後は縫製や包装、軽工業分野でも人員増が予想される。労働者は忠誠心や技術力を基準に選抜され、携帯電話の所持を制限されるなど厳しい統制下に置かれている。中国はこれを「地方レベルの雇用」として黙認し、事実上の制裁回避ルートが再稼働している状況だ。

こうした動きの背後では、ある種の「産地偽装」も進んでいる。国連制裁で禁じられた北朝鮮の労働力により製造した水産物や繊維製品が中国産ラベルで世界市場に出回り、第三国を経て日本や韓国、米国に再輸出される可能性もある。

北朝鮮は外貨を、そして中国は低コスト生産力を得る「共生構造」が強固になりつつある。

今回の李首相訪問で、協力は経済を超え観光・教育・軍事へ広がるかもしれない。金正恩氏は訪中時、中国人観光客の受け入れ拡大を要請し、情報通信や軍事技術、医療分野での人材交流を提案したとされる。両国は電子戦や衛星情報分野でも実務レベルの接触を行っているとされ、中朝関係が「戦略的技術同盟」へ進化している兆しが見える。

すでに両国は、人民元決済の拡大、共同投資ファンドの設立、専用通関システムの構築、資源とエネルギーの物々交換体制など、国際制裁の網をかいくぐる「非公式協力基盤」を整備中とみられる。

李首相の訪朝は単なる儀礼ではなく、両国関係の構造転換を告げる分岐点になるかもしれない。

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