北朝鮮・両江道で、検察が年末の実績を狙って保安員(公安警察)の不正捜査に乗り出したところ、思わぬ事態に陥っている。容疑をかけられた保安員たちが互いの不正を暴露し合う「水鬼作戦」に出たことで、捜査が収拾不能の状態になっているというのだ。

水鬼(ムルクィシン)とは、水辺で溺れて死んだ者の怨念(水鬼)が他人を引きずり込むという言い伝えからきており、自分が窮地に陥ったときに他人まで道連れ、すなわち「地獄へ道連れ」にする人を指す言葉だ。

デイリーNKによると、両江道検察所は10月下旬から保安員の賄賂授受や職権乱用などを集中的に調査している。発端は、一部検事が住民から1~2人の保安員に関する不正情報を入手したことだった。だが、取り調べを進めるうちに保安員たちが報復的に互いの汚職を暴露し始め、事態は一気に拡大した。

保安員は日々住民と密接に接する立場にあり、少し調べれば不正の証拠が山のように出てくる。特に保安員に恨みを持つ住民が「復讐の機会」とばかりに詳細な証言を行い、それが新たな暴露を生む悪循環が生じているという。

近年、北朝鮮では保安員や保衛員など法執行機関の腐敗摘発が強化されており、幹部層でも粛清が続いている。腐敗は治安機関のみならず北朝鮮社会全体をむしばんでおり、金正恩総書記も重要会議で激怒し、時には粛清までして撤廃しようとしているが、一向に収まる気配はない。

そのため、追及を受けた保安員たちは「俺一人では死なない」「死ぬなら一緒に」と開き直り、同僚の不正を次々に通報した。結果、捜査対象は雪だるま式に膨れ上がり、検察は誰を処罰すべきか判断に苦慮している。

検察関係者の間では「一人を追えば十人が浮かぶ」との嘆きが広がり、下手に手を出せば組織全体が揺らぐとの懸念も出ている。当初は小規模な摘発で“成果”を示す予定だったが、いまや体制全体の腐敗構造が露呈する危険をはらむ事態に変わった。

消息筋によると、「清廉な保安員はおそらく一人もいない。国家の給与では家族を養えず、賄賂なしでは生きられない社会だ」という。結局、検察は大規模摘発を避け、警告や人事処分にとどめる可能性が高いとみられる。

しかし、この騒動で検察と安全部の対立は一層深まり、保安員同士の不信感も増幅。年末の「成果」どころか、体制内部の腐敗と脆弱さを浮き彫りにする結果となっている。

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