北朝鮮で物価高騰と食糧難が深刻化するなか、市場や駅周辺をさまよう「コチェビ(浮浪者)」が急増している。最近、両江道(リャンガンド)恵山市では、生活苦により離婚し、家族に見放された女性が路上で死亡するという痛ましい事件が起きた。

貧困が親子や兄弟の絆すらも引き裂いている現実を浮き彫りにしている。

デイリーNKによると、亡くなったのは清津市に嫁いでいた30代の女性。生活難のため8月に離婚し、故郷の恵山市に戻ったが、両親や兄弟も困窮しており、誰一人として彼女を受け入れなかったという。頼るあてもなく街をさまよい、人々から食べ物を乞いながら暮らす日々が続いた。やがて友人たちの支援も尽き、女性は完全に路上生活へと転落。2カ月以上を野宿で過ごした末に、ひっそりと息を引き取った。

発見したのはかつての知人だった。家族に知らせが届き、葬儀が行われたが、正確な死亡時刻すらわからなかったという。消息筋は「葬儀の場で家族は泣き崩れ、自分たちが見て見ぬふりをしていたことを悔やんでいた」と語る。しかし同時に、「自分たちの暮らしで手一杯で、助ける余裕がなかったのだろう」とも付け加えた。

「今の世の中では、お金がなければ親兄弟でも他人以下だ」と住民の一人は嘆く。貧困の前では家族愛すら無力であり、北朝鮮社会の人間関係が経済格差によって崩壊しつつある現状を象徴している。

実際、恵山では同様の事例が増えており、「明日は我が身だ」と不安を口にする人も多いという。

葬儀に参列した人々は、「貧しさは人を冷たくする」「苦労ばかりの人生の果てが路上死とは、あまりにも哀れだ」と涙を流したと伝えられる。

さらにこの事件は、娘を持つ親や若い女性たちにも衝撃を与えた。「経済的に余裕のある家庭に嫁がなければ生き延びられない」との考えが広まり、「いっそ結婚せず一人で生きろ」と諭す親も現れているという。

金正恩政権が掲げる「地方発展」や「社会主義愛国運動」の陰で、社会の最底辺では人間としての尊厳が削がれ、血のつながりすら失われつつある。恵山の女性の死は、北朝鮮に広がる極限の貧困と冷たい現実を象徴する悲劇と言える。

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