北朝鮮・両江道恵山市で、来年に中国へ派遣される女性労働者の選抜が進む中、独身者や子どものいない既婚者が対象から完全に除外されていることが分かった。海外派遣労働者による脱北を防ぐため、北朝鮮当局が家族を事実上の「人質」として扱っているとの見方が出ている。

北朝鮮事情に詳しい複数の情報筋がデイリーNKに語ったところによると、恵山市では現在、海外労働派遣の候補者リスト作成が進められているが、「結婚し、子どもがいる住民」が条件に加えられ、これを満たさない者は最初から応募対象から外されているという。選抜名簿に名前が上がっているのは、ほぼ全員が家庭を持つ女性だとされる。

北朝鮮では従来、派遣労働者の選定にあたり、出身成分(政治的身分)や思想状況が重視されてきた。しかし最近、それに加えて結婚歴や子どもの有無までが必須条件に追加され、基準が一段と厳格化されたと情報筋は指摘する。

経済難が続く中、海外に出て外貨を稼ぎたいと願う独身女性や子どものいない既婚女性の間では、不満が噴出しているという。今年春までは、こうした制約に関係なく中国に派遣された例もあったとされるが、現在はその門戸が完全に閉ざされた格好だ。

北朝鮮にとって海外派遣労働者は、国家の外貨獲得を支える重要な手段である。その一方で国外生活による思想の動揺や脱北リスクが常に懸念されており、当局は厳しい思想検証や身元調査を経た住民のみを派遣してきた。それでもなお、体制離脱は後を絶たず、当局がさらなる引き締めに踏み切ったとみられる。

住民の間では、「家族を人質に取るのと同じではないか」との見方まで浮上している。情報筋は「コロナ禍以降、国境封鎖で国内からの脱北は減ったが、海外派遣労働者による脱出は続いている」と説明。「そこで国家が、逃亡を根本から防ぐために、家庭を弱点と見て『抑止力』として利用しているのではないか」と語った。

海外派遣が生活の数少ない打開策の一つとされてきただけに、若い女性たちの落胆は大きい。恵山周辺では「外国に出る道まで遮られた」との絶望感が広がっており、長期化する経済苦境への不安は一層深まっているという。

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