中国海軍機が東シナ海上空で航空自衛隊機に対し火器管制レーダー(FCR)を照射したとされる問題をめぐり、日中間の緊張が再び高まっている。

鍵を握る「EPAWSS」とは

今回照射したとされる中国側レーダーは、最新世代の高出力アクティブ・フェーズドアレイ(AESA)タイプで、遠距離での精密探知能力と妨害耐性の高さが特徴とみられる。

だが中国航空戦力の中核は、レーダー反射断面積を大幅に抑えたステルス戦闘機J-20、さらに艦載型ステルス機J-35へとシフトしつつあり、長距離探知能力を備えたレーダー照射は、むしろ中国側が「自軍の通常戦闘機であっても優位を確保できる」と示す示威行為の意味合いが強いとの見方もある。

一方、日本が手をこまねいているわけではない。航空自衛隊が現在進めるF-15の近代化改修(F-15JSI)の中核に位置づけられているのが、米レイセオン社製の最先端電子戦システム「EPAWSS(Eagle Passive/Active Warning and Survivability System)」だ。中国側のレーダー能力強化に対応するうえでも、この装備は空自の生存性と作戦行動の自由度を大きく左右する存在となる。

EPAWSSの最大の特徴は、従来の受動的な警戒装置とは異なり、「探知・分析・対抗」を高速に一体処理できる総合電子戦システムである点だ。高度なデジタル受信機と信号処理技術により、敵レーダーの周波数、波形、距離、照射パターンをリアルタイムで解析。従来なら生データを受け取るだけだった脅威情報を、AIによる評価アルゴリズムを用い、瞬時に「どの脅威が最も危険か」「どの対抗手段を使うべきか」まで自動で判断する。

そのうえで、EPAWSSは妨害電波の照射、欺瞞信号の生成、敵ミサイル誘導の撹乱など、複数のアクティブ防御手段を一体運用する。特筆すべきは、これらの対抗手段が全て「同時進行可能」であることだ。中国軍のAESAレーダーが周波数ホッピング機能を用いて妨害を突破しようとしても、EPAWSSはその変化を連続的に追尾し、最適な妨害波形を生成し続けることができる。電子戦環境が激しい現代空戦において、F-15の生存性は桁違いに向上すると分析されている。

さらにEPAWSSは、周囲の電波環境を高精度でマッピングし、僚機や指揮統制システムと共有できる“電子戦ネットワーク”の中核にもなり得る。

これにより、空自は従来の「レーダー対レーダー」の単純な探知・回避型の空中戦から、電子戦を軸とする多層的な防御・情報優勢の獲得へと移行することが可能になる。

中国がJ-20やJ-35といったステルス戦闘機の運用を拡大するなか、空自は性能に勝る米国製F-35シリーズの導入と並行し、ステルス性能に劣るF-15を電子戦能力で“アップグレードされた別物”へと進化させる道をも選んだ。EPAWSSの搭載は単なる装備更新ではなく、戦闘機の運用思想そのものを変える意味を持つものと言える。

ちなみに、EPAWSSは韓国軍のF-15K改修事業でも導入が決まっており、中国に対する「電子線包囲網」は着実に強化されている。

編集部おすすめ