韓国政府が進める戦時作戦統制権(戦作権)転移をめぐり、駐韓米軍トップが「条件を満たさないままの前倒しはあり得ない」と強調し、李在明政権の意欲的なスケジュールに事実上ブレーキをかけた。発言は、米側が慎重姿勢を崩していないことを示すとともに、ソウルの政治主導の“先走り”への牽制とみられる。

ジェイビア・ブランソン駐韓米軍司令官は12日、韓米同盟財団などが主催したオンラインセミナーで、戦作権転移について「李在明大統領は任期中の達成を望んでいるが、われわれは必要な条件を満たす期限を把握している」と述べた。その上で「目標に到達できない可能性についても率直に語らなければならない」と指摘し、韓国政府の強い期待とは温度差を見せた。

司令官は、戦作権転移が「条件に基づく」手続きである点を重ねて強調。「時間の経過とともに状況は変わる。過去に設定された条件が現在も妥当か、不断の検証が必要だ」と述べ、政治的スケジュールに合わせた拙速な判断を戒めた。

戦作権転移は、①初期作戦運用能力(IOC)②完全運用能力(FOC)③完全任務遂行能力(FMC)の3段階を経なければならない。現在は2段階目のFOC検証が進行中で、韓米国防相は先月の安保協議(SCM)で来年中に同段階の検証を完了させる方針を示している。

ただし、1・2段階が数値基準に基づく「定量評価」であるのに対し、最終のFMCはより主観的な「定性評価」とされる。ここに進めば、両国首脳が合意すれば転移を完了させることも可能になるため、韓国国内では「李在明政権の任期内の転移が現実味を帯びてきた」との観測が広がっていた。

こうした中でのブランソン司令官の発言は、米軍が依然として慎重姿勢を保っていることを示すものであり、韓国政府の期待に冷や水を浴びせる形となった。米軍としては、軍事的現実と同盟全体の準備態勢を最優先し、政治判断による前のめりな転移スケジュールに巻き込まれることを避けたい思惑が透ける。

司令官はまた、在韓米軍の兵力規模についても言及し、「2万8500人を維持することが法律で明文化されている」と説明。

兵力維持の方針を改めて確認しつつ、「戦力構造が陸上領域に偏っており、サイバー戦・電子戦・宇宙・空海領域を軽視している面がある」と述べ、将来的な構成の見直しの必要性を示唆した。

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