北朝鮮がロシアに派兵した見返りとして期待していた経済的支援が、ほとんど得られていない可能性が浮上している。韓国の独立系メディア「サンドタイムズ(ST)」によれば、派兵を通じて「戦争特需」を見込んでいた北朝鮮は、むしろ深刻な経済危機に直面しているという。

STによると、衛星画像を含む専門家の分析では、ロシアから北朝鮮への食糧支援や目立った経済的リターンは確認されていない。鉄道輸送や港湾活動にも大きな変化は見られず、派兵の「対価」が実際には支払われていない疑いが強まっている。戦争景気どころか、北朝鮮経済の脆弱さがむしろ表面化しているとの指摘だ。

その象徴とされるのが、最近の米価急騰である。STによれば、平壌や新義州など主要都市で米の市場価格がわずか2週間で5割以上も上昇する異常事態が起きた。専門家はこれを「単なる物価上昇ではなく、市場機能の麻痺を示す危険信号」と分析している。物資流通が滞り、国家による統制も効かなくなりつつあるという。

住民の間ではこれまで、「ロシアが助けてくれる」「派兵すれば生活が楽になる」といった期待が支えになっていた。しかし、現実には物資は届かず、生活苦は一段と深刻化している。STは、高利貸しに頼る住民が急増していると伝え、失望と恐怖が社会全体に広がっていると指摘する。「来年はもっと恐ろしい年になる」という声も少なくないという。

こうした状況は、金正恩政権の政策運営にも影を落としている。

STによれば、派兵代金が入らないことで、金正恩氏が看板政策として掲げてきた地方発展計画や、通常戦力の現代化構想にも遅れが出始めている。中国との従来の関係を犠牲にし、ロシアとの「血盟」を誇示したものの、実利は伴っていないとの評価が強まっている。

さらに、ロシア関連事業に従事してきた貿易労働者らが、報酬未払いのまま「手ぶら帰国」を強いられる恐れもあるとSTは伝える。派兵と対露協力が、現場レベルでは不満と混乱を拡大させている構図だ。

一方、平壌では権力構造の変化も進んでいる。STによれば、42歳以下の高位幹部を中心とした大規模な世代交代が進行中で、派兵失敗や経済難に不満を抱く旧勢力を排除し、体制引き締めを図る狙いがあるとみられている。

STは、北朝鮮のロシア派兵について、経済的実利は乏しく、人的損失と国際的孤立、そして内部の不安定化だけを残した「失敗した賭け」だったと総括する。「ロシアが助けてくれる」という希望は打ち砕かれ、北朝鮮社会は新たな試練の局面に入りつつあるのだろうか。

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