北朝鮮当局が制作した「派兵戦死者を英雄として称える映像」が、若者たちの戦意高揚とは逆に、軍入隊や海外派兵への恐怖心を強める結果を招いている。韓国の独立系メディア、サンドタイムズによれば、いわゆる北朝鮮の「MZ世代」の間では、当局の宣伝とは裏腹に、派兵を避けるため国内の過酷な勤務地を自ら志願する動きが広がっているという。

問題となっているのは、ロシア・ウクライナ戦争に派兵され戦死した北朝鮮兵士を「英雄」として描いた映像作品だ。映像には「祖国は勇士たちの偉勲を記憶するだろう」といった表現が盛り込まれ、青年同盟員らに対して集団での強制視聴が行われているとされる。サンドタイムズによれば、当局は派兵の正当性と名誉性を強調する狙いだったとみられる。

しかし、対北消息筋の話として同メディアが伝えたところによると、この映像は若者たちに強い恐怖感を植え付ける結果となった。全軍で最も戦闘力が高いとされる特殊部隊の兵士が派兵され、多数が戦死した事実が強調されることで、「戦闘力の弱い一般部隊が行けば全滅するかもしれない」という認識が若者の間で急速に広がったという。

この影響で、「今入隊すれば、いつ海外の戦場に送られるか分からない」という不安が拡散。サンドタイムズは、若者の間で軍入隊を避けるため、炭鉱や農村、建設現場の突撃隊など、国内のいわゆる“険地勤務”に志願する現象が相次いでいると伝えている。北朝鮮メディアはこうした動きを「党の呼びかけに応えた愛国的決断」と報じているが、実態は派兵回避を目的とした「生存型の選択」との見方が支配的だ。

さらに、派兵対象が主に労働者や農民の子どもに集中し、幹部や富裕層の子どもは後方の安全な部署に配置されているとの認識が広がったことも、若者の不信感を強めている要因だ。サンドタイムズによれば、宣伝映像が訴える「命を捨ててでも祖国の名誉を守れ」というメッセージに対し、若者たちは「誰のための名誉なのか」と冷ややかな反応を示しているという。

派兵戦死者の犠牲を英雄化することで体制の結束を図ろうとする北朝鮮当局の宣伝は、結果として体制内の不平等と「命の重さ」をめぐる矛盾を浮き彫りにしている。サンドタイムズは、派兵美化映像が忠誠心ではなく恐怖心を増幅させる「逆効果の宣伝」になっていると指摘している。

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