北朝鮮の金正恩総書記の妹、金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党副部長の動向が注目を集めている。19日に朝鮮中央テレビが放映した黄海南道・長淵郡の地方工場竣工式の映像では、金正恩氏に同行した金与正氏が、高位幹部らが見守る中、住民に自らビールを注ぐ場面が映し出された。

地元の食料工場で生産された瓶ビールを手に、住民に囲まれながら言葉を交わす姿は、これまでにない演出だ。金正恩氏出席の公式行事で、金与正氏が住民とこれほど近い距離で行動するのは初めてとみられる。

金与正氏と言えば、近年はもっぱら対外メッセージの発信を担当し、特に韓国に対しては遠慮のない罵詈雑言を並べてきた。そのため「コワモテ」のイメージを持たれているが、今回の映像は、それとは距離のある印象を抱かせる。これには、金与正氏が「人民の暮らしに目を配る白頭血統の実力者」というイメージを強調する狙いがあるのかもしれない。

どちらが本来の金与正氏の姿に近いのかは判断がつかないが、彼女が「優しさ」よりは「厳しさ」、あるいは「手ごわさ」を前面に出してきたのは確かだ。

北朝鮮の内部事情に詳しい韓国統一研究院の趙漢凡(チョ・ハンボム)研究委員がYoutubeで明らかにしたところによると、金与正氏には「平壌の死神」という別名もあるという。多忙な兄に代わって、国内統治の引き締め役を担っているということだ。

実際、米政府系ラジオ・フリー・アジア(RFA)は2021年5月、両江道の行政機関幹部の証言として、金塊密輸に関与した国境警備隊兵士ら10人が金与正氏の指示で処刑されたと報じた。韓国のデイリーNKも2020年12月、汚職に関与した国家保衛省の中堅幹部8人が、同氏の指示により処刑されたと伝えている。

恐怖政治によって体制を維持してきた北朝鮮では、権力中枢に立つ者に冷酷な決断力が求められてきた。こうした現実を踏まえると、後継者としての存在感を増す金正恩氏の娘、ジュエ氏も、将来同様の役割を担う可能性があるのかどうか、静かな関心が集まりつつある。

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