北朝鮮当局が、ロシア西部クルスク地域に派遣され、地雷除去などに従事した工兵部隊の帰国を大々的に称え、「英雄」として持ち上げる宣伝攻勢を強めている。一方で、こうした動きに対し、一般住民の間では反発や戸惑いが静かに広がっている。

平壌市のデイリーNK現地情報筋によると、朝鮮労働党中央委員会の宣伝扇動部は、海外作戦地域に派兵された朝鮮人民軍第528工兵部隊を「英雄の典型」と位置付け、全国規模の宣伝事業に着手した。金正恩国務委員長が帰国歓迎演説で同部隊の「功勲」を高く評価したことを受け、その英雄像を国家的な「模範」として体系化する狙いだという。

宣伝扇動部は今月中旬以降、同部隊の「英雄的闘争精神」を強調する講演資料を、各機関や企業所、住民組織、軍事動員部門などに配布。住民や学生に対し、彼らの精神に感化され、国家への献身を誓う「反映文(感想文)」の提出を求めている。

講演資料では、第528工兵部隊がロシアへの単なる支援にとどまらず、「戦闘的性格」を帯びた任務を遂行したと強調。「彼らの戦闘経験と高貴な犠牲は、我々の歴史に永遠に刻まれる一頁となっている」といった表現が並ぶ。また、部隊員本人だけでなく、彼らを育てた家族を「革命的家庭の模範」と称賛し、「より多くの英雄戦士を育てよう」と住民に訴えている。

資料の末尾には、「全国のすべての親が子どもを祖国防衛の聖戦に志願させるべきだ」との文言も盛り込まれ、事実上、子どもの海外派遣や戦地投入を正当化する内容となっている。

しかし、こうした露骨な宣伝に、住民の受け止めは厳しい。情報筋は「海外作戦で命を落とした兵士と同じように、息子を差し出せと言われて納得する親がどこにいるのか」と語り、「戦死者を思う複雑な感情を胸に、声を上げられず沈黙の中で怒りや悲しみをこらえている人が多い」と指摘する。

国家が「英雄叙事詩」を強調すればするほど、庶民の生活感覚との乖離は広がりつつある。北朝鮮社会の深層では、表向きの忠誠の裏で、静かな不満と不安が蓄積している実態が浮かび上がっている。

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