韓国政府が北朝鮮への無人機侵入を公式に認め、異例とも言える「一方的謝罪」に踏み切った。これに対し、北朝鮮の金与正・朝鮮労働党副部長は「高く評価する」「常識的な行動だ」と応じたが、その言葉の裏には、南北関係における力の非対称性、いわば「北高南低」の構図が色濃くにじむ。

韓国の鄭東泳統一相は18日、民間人が過去4回にわたり北朝鮮に無人機を侵入させていた事実を公表し、政府として公式に遺憾の意を表明した。

調査によれば、侵入は昨年9月から今年1月にかけて行われ、うち2機は北朝鮮領内に墜落。関与した民間人や軍関係者、情報機関職員に対し、一般利敵罪などを適用して捜査を進めるという。鄭氏は「平和共存政策に水を差す危険な行為」と強く非難し、再発防止のための法改正や9・19南北軍事合意の復元を進める方針も示した。

注目されるのは、韓国側が「民間による侵入」という形を強調しつつも、事実上、国家として北朝鮮に頭を下げた点だ。これに対し、金与正氏は翌19日、朝鮮中央通信を通じて談話を発表。「主権侵害行為を認め、再発防止の意思を示した点を高く評価する」と述べ、韓国政府の対応を“称賛”した。

しかし、ここで際立つのは、北朝鮮自身が過去に繰り返してきた南側への無人機侵入について、一切の謝罪も説明も行っていない事実である。韓国軍の発表によれば、北朝鮮は近年、少なくとも十数回にわたり偵察用無人機を韓国領空に侵入させている。中にはソウル上空を飛行し、大統領府周辺を撮影したとされる事例もある。それにもかかわらず、北朝鮮はこれらの行為を「正当な偵察活動」と位置付け、責任を認めたことはない。南側の侵入には「主権侵害」と激しく反発しながら、自国の行為には沈黙を貫く姿勢は、二重基準そのものと言える。

さらに金与正氏は談話で「再び主権侵害があれば、恐ろしい事態に直面することになる」「これは脅しではなく明白な警告だ」と強調し、南北を「敵対的な二国家」と位置付ける従来の立場を改めて確認した。さらに、南側との国境地帯で警戒態勢を強化すると表明し、軍事的緊張の緩和には一切応じない姿勢を示した。

韓国政府は今回の謝罪を、対話再開への「呼び水」と位置付けた。鄭氏は「互いに過ちを認める勇気が必要だ」と語り、南北基本合意書の精神への回帰を訴えた。しかし北朝鮮の反応は、南側の融和的ジェスチャーを評価しつつも、それを交渉カードとして最大限に利用し、優位な立場を誇示するものだった。

背景には、北朝鮮の核武装と、政権交代で発足した李在明政権の「対北融和路線」がある。対話重視の姿勢を前面に押し出す中、北朝鮮に対して弱腰との印象を与えかねない対応が続いている。一方の北朝鮮は、謝罪を引き出した事実そのものを体制の「勝利」として内外に誇示し、南側への心理的優位を固めようとしている。

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