北朝鮮当局が住民に対し、幹部の汚職や生活上の不利益について「申訴(しんそ)」と呼ばれる苦情申し立てを積極的に行うよう呼びかけていることが分かった。金正恩体制が、生活苦の拡大で高まる住民の不満を“ガス抜き”するため、幹部に責任転嫁しようとしているとの見方が出ている。

米政府系放送のラジオ・フリー・アジア(RFA)が9日、北朝鮮内部の情報として伝えた。

RFAによると、北部・両江道の住民は、「最近、当局が住民に対し、幹部の不正腐敗や生活で受ける不利益について積極的に申訴や請願を提出するよう宣伝している」と明らかにした。

現地の党幹部は住民らに対し、申訴は「公民の権利」であり「民意の反映だ」と強調。「党は人民の声を重視しており、将軍様の政治は人民愛の政治だ」と説明したとされる。また、申訴は自身の権利や利益の保護・回復を求めるもので、請願は幹部の腐敗根絶を目的とする制度だとする説明も行われたという。

北朝鮮では1998年に申訴・請願制度が制定され、各地の党機関や行政機関には、住民が手書きの申訴文を投函する「申訴箱」が設置されているとされる。ただ、情報提供者は「生活が苦しくなるにつれて申訴する人は増えているようだが、申訴で問題が解決したという話は聞いたことがない」と語った。

また、別の咸鏡北道の住民も、「申訴を奨励する解説を聞いたが、本質は幹部の腐敗を告発せよということだ」と指摘した。その一方で、「今の幹部は誰もが権限を利用して私利私欲を満たしているが、自分なら絶対に申訴しない」と述べ、報復への不安が強い実態を明かした。

同住民によれば、過去に保衛機関による不当な扱いを申訴した知人がいたが、公正な処理は行われず、本人だけでなく家族まで報復を受けたという。知人は「虚偽申訴者」とのレッテルを貼られて職も得られず、数カ月後に亡くなったとされる。

当局は申訴の秘密を厳格に守るとしているが、提出の際には氏名や職場、居住地などを記入する必要があり、これ自体が報復のリスクにつながるとの指摘がある。

さらに、申訴処理を担当する軍党委員会の部署も幹部同士でかばい合う傾向があり、「実際に告発する人がどれほどいるのか疑問だ」との声が上がっている。

住民の一人は「当局は一部の幹部を『腐敗分子』として処罰し、動揺する民心を収拾しようとしているようだ」と指摘。その上で「政策は良いが中間幹部が実行できないため国がこうなったと考える人もいるが、誰もがそう思っているわけではない」と述べ、制度への不信感が根強い実情を示唆した。

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