米国とイスラエルによるイラン攻撃が続く中、専門家の間では東アジアで別の核危機が静かに拡大しているとの懸念が強まっている。北朝鮮が核兵器用核物質の生産能力を着実に拡大しているためだ。

中東情勢に国際社会の関心が集中する今こそ、北朝鮮にとっては核戦力を増強する好機との見方も出ている。

北朝鮮の核開発をめぐっては、国際機関や各国政府が近年、施設の拡張や稼働を相次いで確認している。国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は2026年初めの報告で、北朝鮮の核活動について「非常に憂慮すべき状況が続いている」と指摘し、同国が核物質生産を継続しているとの見方を示した。

IAEAは、北朝鮮の主要核施設である寧辺核科学研究センターで黒鉛減速炉の稼働兆候が確認されているほか、軽水炉でも運転の痕跡が見られると報告している。黒鉛炉は核兵器用プルトニウムを生産できる施設とされる。また同施設では近年、新たな大型建物の建設も確認され、遠心分離機によるウラン濃縮能力の拡張の可能性が指摘されている。

さらに米情報当局は、平壌郊外にあるとされる未申告のウラン濃縮施設、カンソン濃縮施設の存在にも注目している。この施設は北朝鮮が公式に認めていないが、米国の専門家は寧辺とは別の大規模濃縮拠点である可能性が高いとみている。

韓国政府も北朝鮮の核生産能力の拡大を警戒している。韓国統一省は2025年の国会報告で、北朝鮮には少なくとも4カ所のウラン濃縮施設が存在するとの評価を示し、高濃縮ウランの保有量は約2000キログラムに達する可能性があると説明した。これは理論上、100発以上の核弾頭を製造できる量とされる。

米国の研究機関は現在、北朝鮮が保有する核弾頭数を約40~70発程度と推定しているが、年間で7~20発分の核物質を追加生産できる可能性があるとの試算もある。

増産が続けば、2030年前後には核弾頭数が150~200発規模に達するとの予測も出ている。

北朝鮮自身も核兵器の量的拡大を公然と掲げている。金正恩総書記は2023年末の朝鮮労働党中央委員会総会で「核兵器保有量を指数的に増やす」と宣言し、戦術核の量産を指示した。

一方で、朝鮮半島の防空態勢をめぐっては新たな懸念も浮上している。複数の米韓メディアによると、米軍は中東情勢の緊迫化を受け、在韓米軍が保有する一部の防空装備を中東地域へ移転した。韓国政府は北朝鮮のミサイル脅威を理由に懸念を示したが、米側は中東の防空体制強化を優先したとされる。

韓国ではこの措置に対し、朝鮮半島の防空網に一時的な空白が生じかねないとの議論が起きている。米韓はミサイル防衛体制の強化を進めているものの、弾道ミサイルや巡航ミサイルを大量保有する北朝鮮に対し、防空システムの数は依然として限られているのが実情だ。

今回のイラン戦争では、米軍やイスラエル軍が地上侵攻を行わず、長距離攻撃と空爆を中心とした作戦に依存した点も注目された。イランの防空網は多くの攻撃を受けて機能不全に陥ったものの、国家体制そのものは短期間では崩壊していない。

今回の戦争は、北朝鮮指導部に複雑な教訓を与えた可能性がある。「空爆は厄介だが体制は簡単には崩壊しない」「米軍は最強でも政治的・数量的な限界がある」という現実が示されたからだ。

中東の戦火が長期化すれば、米国が同時に別の地域で大規模な軍事緊張に対応する余力は限られるとの見方もある。その間にも北朝鮮の核戦力は着実に拡大している。

国際社会がイラン情勢に目を奪われる中、朝鮮半島では静かな核競争が続いている。数年後、世界が直面する脅威は、中東の戦争とは比較にならない規模に達している可能性も否定できない。

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