陸上自衛隊の12式地対艦誘導弾(能力向上型)の配備が熊本市の健軍駐屯地で進む中、地元では「地域が攻撃対象になるのではないか」との懸念が広がっている。一方で、防空体制そのものの強化については目立った動きが見られず、「なぜ守りは後回しなのか」という疑問も浮上している。

今回配備された12式は、従来の沿岸防衛用から大きく性格を変え、長射程のスタンド・オフ攻撃能力を備える。数百キロ以上離れた目標を攻撃可能とされ、防衛省は「反撃能力」の中核と位置付ける。九州から広範囲を射程に収めることができるため、熊本は従来の後方支援拠点から、作戦上の重要拠点へと位置付けが変化した。

こうした変化が、住民の不安の背景にある。軍事的に見れば、長射程ミサイルの発射拠点は有事の際に攻撃対象となり得る。実際、現代戦では敵の攻撃能力を無力化するため、ミサイル部隊や指揮施設を優先的に叩くのが一般的とされる。このため「標的化」の懸念自体は、専門家の間でも一定の合理性があると指摘されている。

ただ、防衛当局はこうした見方に対し、抑止効果の側面を強調する。相手に反撃能力の存在を認識させることで攻撃自体を思いとどまらせる狙いがあり、単純に危険性が増すとは言えないという立場だ。ある防衛省関係者は「攻撃される可能性と同時に、攻撃されにくくする効果も働く」と説明する。

問題は、防空体制との非対称性だ。熊本では地対空ミサイルの恒常的な増強計画は確認されておらず、弾道ミサイル防衛を担うパトリオット(PAC3)も常駐部隊としては配備されていない。

過去に一時的な展開はあったものの、常設の防空拠点とは位置付けられていないのが実情だ。

背景には構造的な制約がある。第一に、防空システムの高コストだ。迎撃ミサイルは1発数億円規模とされ、レーダーや指揮統制を含めたシステム全体の整備には巨額の予算が必要となる。加えて、運用部隊や要員の数も限られており、全国一律に配備することは現実的ではない。

第二に、防衛政策上の優先順位がある。日本のミサイル防衛は首都圏や主要基地などの重要拠点を重点的に防護する考え方が基本で、地方都市は相対的に後回しになりやすい。熊本は陸自の拠点ではあるが、航空基地や中枢機能を抱える地域と比べると優先度は高くないとみられる。

さらに近年は、防御一辺倒から反撃能力の整備へと政策の軸足が移っている。限られた資源の中で、迎撃能力の拡充よりも「撃たせない」抑止力の強化に重点が置かれていることも、防空整備の遅れにつながっている。

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